※流血・暴力シーンが含まれます。※

血生臭いのが嫌いな方は見ないことをお勧めします。
それでも見るという方は自己責任でお願いします。

　普通に行けばかなりの時間がかかる道のりを、彼は殆ど時間をかけずに移動した。
　息は殆ど乱れていない。
　唇は笑みをかたどったまま、視線を辿り着いた村の入り口へと向ける。
　其処にはまだ何も知らない人々が、活動していた。
　走る速度を落とさずに入り口へ近づく。
　その近辺にいた村人の一人が、近づく彼に気がついた。
　訝しげな表情をしていたその者も、返り血でもはや黒く見える服と、抜き身の剣を下げた姿を認めて驚愕に口を開いた。

　夜気を劈く悲鳴が迸る。
　それが途切れる前に、彼はその村人に近づいていた。
　勢いのまま、剣を突き刺す。
　急所は外して。

　そうすれば、直ぐには息絶えない。
　傷つき倒れるその身体を更に突き刺し、切り刻み、踏みつけてから、動かなくなったその死体をまたいで次へと向かう。

　それまで平和だった村に、血の臭いと悲鳴が充満し始めた。

　彼は次々と村人を手にかけていった。
　遠慮する必要など何処にも無い。
　彼はこの村と何の関係も無い。
　先程の町と、関係が無かったように。
　ただ、其処にあるから壊すだけだ。
　躊躇う理由など何処にも無かった。

　村の中程まで行った時、通りの真中に一人の子供がいるのが目に入った。

　闇に溶け込むような黒い髪。
　緑の目を大きく見開いて、彼を見ている。
　手には何かの草を持っていた。
　彼は笑みを浮かべながら、ゆっくりとその子供に近づいていった。
　子供は逃げようともせず、ただじっと彼を見ている。
　恐怖の色がちらりと緑の目に映るが、おおむねどうしたらいいのか戸惑っているようだった。
　彼は剣の届く範囲まで近寄ると、無造作に剣を振り上げた。

　子供の目に剣を翳す自分の姿が映っていることを見ながら、彼はそれを振り下ろした。
　真っ直ぐ振り下ろされる刃にも、子供は動かなかった。



　だが、それが子供を切り裂くことは無かった。

　甲高い音がして、子供の鎖骨を砕くはずだった剣は受け止められていた。

　彼から笑みが消える。
　受け止めたのは、僅かな月光に薄く輝く茶色の髪を持つ男だった。
　男は硬直したままの子供を振り返り、低い声で囁いた。
「行きなさい」
　ぎりぎりと、刃がこすれ合う音が響く。
　子供は動かない。
　ぼんやりと、目の前の男を見上げている。

「早く！」

　囁く声に力を込めると、子供は弾かれたようにその場を駆け出した。
　男は子供が遠ざかったのを確認して、彼の刃を弾いた。
　ゆっくりと構え直し、厳しい口調で口を開く。
「これ以上は殺させない」

　その口調と強い瞳に、彼は再度笑みを浮かべた。
　この強気な男を、壊すのはどんなに楽しいだろうと思って。
　彼は構えも何も無いまま男に切りかかった。
　先程の町にも、彼に刃向かう者はいた。
　だが、そんなものは彼の敵ではなかった。
　殆どが一刀の元に斬り捨てられた。

　だが、目の前のこの男は違った。

　彼の一撃を防いで見せ、なおかつ攻撃を仕掛ける余裕まで持っていた。
　男の剣が服の袖を切り裂く。
　殺すのとは別の高揚感に、彼は喉の奥で笑った。
　眼差しを険しくして、男が彼を睨みつける。
　短く吐息を吐き、男が切り込んできた。

　何合か打ち合う。
　男の剣は狙いすましたようにこちらの隙をついてこようとする。
　それを防ぎ、なお攻撃に転じながら、彼は人の気配がなくなっていることに気づいた。
　面白くない、と思った。

　瞬間、隙が出来た。

　しまった、と思ったときには、男の剣が側頭部に直撃していた。
　声もなく倒れた彼の傍らに、男が近寄っていく。
　動かないことを確かめ、男は盛大に息を吐いて剣を鞘に収めた。