小説用倉庫。
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『愚かな……』
ルシェイドの声に、カウェラルは意識を取り戻す。
そこはラインシェーグが魔法陣を作った部屋ではなく、青空の広がる空の下、学院の裏にある草原だった。
風が、通り抜ける。
「何を……」
『空間を切り離して転移させた。……ここを今、滅ぼすわけにはいかない』
冷淡ともとれる口調で。
カウェラルはそんなルシェイドの声を聞き、そして周りに意識を向ける。
傍らにはセルファが倒れている。
「……ラインシェーグは……どうしたのですか?」
嫌な予感に胸を抑えながら聞く。
ちらりとカウェラルを一瞥して、ルシェイドはその金の瞳を伏せた。
『……封じた。彼を、殺すわけにはいかなかったから……』
愕然と、カウェラルはルシェイドの方に顔を向ける。
「どうして……」
『ここを滅ぼすわけにも、そして彼を死なせるわけにもいかなかった。ただそれだけのこと。……彼は、もうこの世界には戻らないかもしれないが……』
どこか哀しそうに、ルシェイドは言う。
カウェラルはまだどこかふらふらする身体で立ち上がった。
「彼が、最後に放った魔力は……」
この大陸が壊れるかと思うほどの、強い力。
あれを、どうしたのか。
『相殺させた』
さらりと、なんでもないことのように言うルシェイドのことを、今更ながら思い出す。
すべてを超越する者。
『……もう、時間がないようだ……』
呟かれた言葉に、顔を上げる。
どこか、気配が弱くなっている。
薄く、かすれるように。
「何が……」
『……たかが、人間と侮っていた。……まさか……』
「まさか?」
『……いや……』
そこで言葉をとぎらせると、ルシェイドは片手に持った黒い本を翳した。
それは風化するかのようにさらさらと形を崩し、風に吹かれて跡形もなく消えた。
『……カウェラル=ヴァゼス。お前の目を、治していこうか?』
不意に真名を呼ばれて、思わず聞き返す。
「今、なんて……」
どこか釈然としない表情で、ルシェイドが言う。
『お前が願えば目くらい治せる。……元はといえば、あの本を開いたからなのだろう』
「……治せるのですか?」
『そのくらいの力はある』
憮然として応えるルシェイドに、カウェラルは苦笑した。
少し考えて、応える。
「……では、お願いします」
『わかった。……私の、最後の、仕事だ』
それだけを言って、ルシェイドは消えうせた。
存在の消失。
空間から消えたのではなく、その存在が。
驚いて、カウェラルは思わず目を開く。
途端飛び込んだ光の色。
その鮮やかな色彩に、思わず涙を流す。
ラインシェーグのことも同時に思い出され、その場に膝をつく。
学院の主席は、もうふたりともいなくなってしまった。
ルシェイドの声に、カウェラルは意識を取り戻す。
そこはラインシェーグが魔法陣を作った部屋ではなく、青空の広がる空の下、学院の裏にある草原だった。
風が、通り抜ける。
「何を……」
『空間を切り離して転移させた。……ここを今、滅ぼすわけにはいかない』
冷淡ともとれる口調で。
カウェラルはそんなルシェイドの声を聞き、そして周りに意識を向ける。
傍らにはセルファが倒れている。
「……ラインシェーグは……どうしたのですか?」
嫌な予感に胸を抑えながら聞く。
ちらりとカウェラルを一瞥して、ルシェイドはその金の瞳を伏せた。
『……封じた。彼を、殺すわけにはいかなかったから……』
愕然と、カウェラルはルシェイドの方に顔を向ける。
「どうして……」
『ここを滅ぼすわけにも、そして彼を死なせるわけにもいかなかった。ただそれだけのこと。……彼は、もうこの世界には戻らないかもしれないが……』
どこか哀しそうに、ルシェイドは言う。
カウェラルはまだどこかふらふらする身体で立ち上がった。
「彼が、最後に放った魔力は……」
この大陸が壊れるかと思うほどの、強い力。
あれを、どうしたのか。
『相殺させた』
さらりと、なんでもないことのように言うルシェイドのことを、今更ながら思い出す。
すべてを超越する者。
『……もう、時間がないようだ……』
呟かれた言葉に、顔を上げる。
どこか、気配が弱くなっている。
薄く、かすれるように。
「何が……」
『……たかが、人間と侮っていた。……まさか……』
「まさか?」
『……いや……』
そこで言葉をとぎらせると、ルシェイドは片手に持った黒い本を翳した。
それは風化するかのようにさらさらと形を崩し、風に吹かれて跡形もなく消えた。
『……カウェラル=ヴァゼス。お前の目を、治していこうか?』
不意に真名を呼ばれて、思わず聞き返す。
「今、なんて……」
どこか釈然としない表情で、ルシェイドが言う。
『お前が願えば目くらい治せる。……元はといえば、あの本を開いたからなのだろう』
「……治せるのですか?」
『そのくらいの力はある』
憮然として応えるルシェイドに、カウェラルは苦笑した。
少し考えて、応える。
「……では、お願いします」
『わかった。……私の、最後の、仕事だ』
それだけを言って、ルシェイドは消えうせた。
存在の消失。
空間から消えたのではなく、その存在が。
驚いて、カウェラルは思わず目を開く。
途端飛び込んだ光の色。
その鮮やかな色彩に、思わず涙を流す。
ラインシェーグのことも同時に思い出され、その場に膝をつく。
学院の主席は、もうふたりともいなくなってしまった。
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