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2012/02/04 (Sat)
 轟然と言い放つルシェイドに一瞬呆然として、ラインシェーグは怒鳴った。
「何だと!? お前は生と死をも司ると聞いた! 出来ぬことは無いと!!」
『……確かにできないことはない』
「じゃあ……!」
『……言い方が悪かったか。……私は、そんなことはしない』
 表情も変えずに、淡々と。
「何故だ! お前は願いを叶えてくれるんだろう!」
『願いを叶えるのは、それが必要なときのみ。……それに』

 ラインシェーグを見つめたまま、そこで一旦言葉を切る。
『……彼の者の魂はお前のものではない。お前が、勝手にかき回すこともできない。……それにお前も言っていただろう。私は運命の調停者。自らがその運命を変えることは許されない』
 言いながら少し表情を曇らせて。
『許されないんだ……』

 カウェラルはその言葉に含まれた響きに、視線を上げる。
 哀しそうな、声と眼で。
 それすらも見えないのか、ラインシェーグは声を荒げる。
「ならばやり方を教えろ! お前がやらないというなら私がやる!」
『無理だ。人間如きに扱える術ではない』
 ルシェイドはにべもない。
『いくらお前の魔力が強くても……蘇生の術に関しては、素人だからな』
 肩を震わせて、ラインシェーグはルシェイドを睨みつける。
「蘇生の術なんか、誰もやったことなどないだろう。けれど、できるかもしれないじゃないか」
 何も言わずに、ルシェイドはラインシェーグを見据える。
「どうして、どうして叶えてくれないんだ……! 私は彼女以外いらないのに……ッ!」
『駄目だ。……やるわけにはいかないし、教えるわけにもいかない』
 きっぱりとした拒絶。

 それを聞いてラインシェーグは片手で顔を覆う。
「……ッ……!」

 そうしてしばらく沈黙が下りた。
 不意に、彼は手を下ろす。
 拳を握るでもなく自然に。
 カウェラルははっとして顔を上げた。
 魔法力が、集っていく。
 ラインシェーグの、ところに。

 何をするのか一瞬にして悟ったカウェラルは、止めようと手を伸ばす。
 身体が重い。
 泥の中にいるかのような動きづらさがもどかしい。
「……止めなさい……! ラインシェーグ……!」
 苦しげに言う言葉はもはや彼には届かない。

 もう、届かない。


 ルシェイドは眉をひそめてラインシェーグを見る。
『何を、する気だ……。ラインシェーグ=レイズ=アヴェロス』
 それは彼の真名。
 彼を縛る、唯一の。
 けれど彼は暗く、微笑んで呟く。
「ファレルが、いないなら……」

 こんな世界なんて。
 自分は、要らない。

 弾けるような音と共に、集められた魔力は一気に解放され、そしてあたりは閃光に包まれた。


(ラインシェーグ……)
 ファレルが微笑む。

 けれどそれは金の残像を残して白い光に飲み込まれ、もう見えない。
 永遠に。
 彼のことを好きだといったファレルは、もう、二度と彼に微笑みかけることはない。

 叶うなら、もう一度。
 彼女と、一緒に。
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