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2012/02/04 (Sat)
 もうすぐ。
 魔法陣が完成する。
 いまだ誰も成功したことのない、魔法の力。

 ラインシェーグは何のためらいもなく進めていく。
 狂ったような瞳と、唇は相変わらず歪んだままで。
 一心不乱に行動する彼は他人の目には奇異に映ることだろう。
 けれどそんなことは彼には関係ない。
 唯、自分の思うとおりにやるだけだ。
 何を犠牲にしても。

 描き終わった魔法陣を前にして、黒の本を片手に持って息を吸い込む。
「……我は汝に乞い願う。金色の後継者。運命の調停者よ。我は汝の名を知る者。契約において我汝が名を呼ばん。汝我が問いかけに応え、我が前に現われ出でよ。……ノーメン・スポンディエーレ・ロータ……」
 長い呪文を途切れることなく滑らかに唱える。
 詠唱の呪文は一気に発音を間違えずに唱えなければならない。
 それは集中力も試される。
 けれど今の彼はひとつの事しか頭にないから。
 そうして呪文は完成した。
 詠唱を終えた途端、部屋の扉が開かれた。

「ラインシェーグ!」
 カウェラルとセルファの姿を認めて、ラインシェーグが笑う。
 病んだ笑み。

「もう、遅い……!」
 魔法陣からは吹き飛ばされそうなほどの風が巻き起こっている。
 その風に煽られながら、ラインシェーグは一瞬、微笑んだ。
 綺麗な、笑顔で。

「まさか、成功したのですか……?」
 呆然と、カウェラルが呟く。
 それを鼻で笑い、魔法陣に視線を移す。
「さぁ、出て来い! そして……」

 私の願いを、叶えろ。

 声に出さずに、呟く。
 ゆらりと、魔法陣の中心に黒い影が出てきた。
 長い黒髪。
 しなやかな肢体を薄布で包み。
 そして、金色の目が、鮮やかにその場にいる三人を貫く。
 何もかもを見透かすような、そんな眼で周りを睥睨して。

『我が名はルシェイド……。私を呼んだのは、お前か』

 頭に直接響く、けれど澄んだ、綺麗な声。
 現われたその女性、ルシェイドは、冷たく光る瞳で周りを威圧する。
「そうだ。私の願いを叶えてほしい」
『……』
「ラインシェーグ! やめなさい!」
 カウェラルが必死に声を出す。
 彼女が放つ空気に押されて、苦しそうだ。
 セルファはすでに気を失って倒れている。
 高位のものが放つ存在感は、耐久力のない者にとっては死ぬほどに、それは圧力を伴って周りを襲う。
 ルシェイドは魔法使いの最高位に位置する。
 ほとんどの者にとっては実際に見たこともなく、伝説のようなもの。
 ラインシェーグは、制止の声をあげるカウェラルを無視して、叫んだ。
「ルシェイド……私の願いはひとつだけだ……。ファレルを……ファレル=リィン=ゼードを甦らせろ!」
 絞り出すような声で、彼は必死に訴える。
 彼女が死んでから、本当に唯それだけを、願ってきたから。

 ルシェイドはしばらくじっと、ラインシェーグを見つめる。
 そして溜息とともに呟いた。

『……それはできない』
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