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2012/02/04 (Sat)
「カウェラル様ー! すいません遅れましたぁ!」
「……何かあったんですか? セルファ」
 勢いよく扉を開けたセルファに、盲目の教師、カウェラルは苦笑して聞く。
 書庫には今、彼らのふたりしかいない。
 脚立に座って指でなぞっていた本を閉じると、カウェラルは身軽に降り立った。
 その瞳は閉じられたままで。
 背中に垂れた黒髪をなびかせて、セルファの近くに行く。
「カウェラル様ってほんとに目、見えないんですか?」
 驚きをこめて問い掛ける。
 カウェラルはそんなセルファに微笑んだ。
「ほんとに見えませんよ……。この眼ではね」

 彼は物理的にではなく魔力を使ってモノを見る。
 そう言われても、目の見えるセルファには良くわからない。
「それで、何かあったのですか?」
 先ほどと同じ問いを、カウェラルは繰り返した。
「あ、はいー。さっきそこでラインシェーグと会ったんですよぅ」
「ラインシェーグと? ……平気そうでしたか?」
 不安そうに顔をゆがめるカウェラルを見て、セルファは能天気に笑う。
「平気じゃないですか? 別段変わった様子はなかったですけど」
「……それなら良いんですけど」
 相変わらずのセルファに僅かに苦笑して、カウェラルは俯く。

「そういえば、ラインシェーグ、何かの本持ってましたよ。黒い本」
 思い出したように手を売って言われたことに、カウェラルは表情を変えた。
「それは、金の文字が描かれた本ですか?」
「えーと、はい、たぶんそれですね」
 間の抜けたような返事を聞いて、カウェラルは持っていた本を机に置くと部屋から飛び出した。
 それを慌ててセルファが追う。
「ど、どうしたんですか?」
「ラインシェーグが持っていたのは、おそらく禁書と呼ばれるものです。いつもは厳重に保管してあるはずなのに……!」
「禁書?」
 半ば走りながら、カウェラルに追いついて聞く。
 セルファはそれなりに足が速い。
「運命を司り、何者にも縛られない……すべてを超越するもの。そういう者のことが、書いてあるんです」
「何で知ってるんですか?」
「……昔、好奇心で開いてみました。……おかげでこの有様です」
 自嘲気味に、カウェラルは自分の目に触れる。
「けれど、ラインシェーグには力がある」

 自分よりも強く、そしておそらく学院でも最強の、魔法力。
「彼ならば……こんなことにはならないでしょうが……」
「大変そうですねーとにかく急ぎましょう。……ラインシェーグは多分こっちですよ」
 へらりと笑って、セルファが言う。
 彼は魔法力はあまり高くないが、気配を読む力は人並みはずれてある。
 カウェラルは頷いて、足を速めた。
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