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2012/02/04 (Sat)
 彼は考えていた。
 誰もいない、暗い自身の部屋の中で。

 どうしたら。
 どうすれば。

 それは祈りのよう。
 それとも何かの呪文のように。
 ただそれだけを、長い長い、時間をかけて。
 彼は思う。
 その、方法を。

 そして。


 学院の屋上に上がって月を、空を見ていた。
 静かな、自分だけの空間。
 自分がまわりに溶け込んでいるような。
 世界を構成するものと一体になっているような。
 不確かな感覚。
 吹き抜ける風の音を感じていると、背後の階段から、誰か来る気配がした。
 気づかないふりで、空を見つづける。
 誰もいなくなるまで。
 きっとそれは。

「……」
 すぐにいなくなるだろうと思っていたが、なかなか立ち去る気配が無い。
 不審に思った彼は振り返って驚く。
「……ファレル……?」
 肩にショールをかけて、静かにラインシェーグを見ている。
「……眠れないのか?」
 ファレルは応えない。
 不審に思って近寄ってみる。
 近くに行くに連れて、彼女が震えているのがわかった。
 唇をかみ締め、青い顔でじっと見つめている。
 そのきんの髪に触れると、ファレルは一度痙攣して、それからラインシェーグに抱きついた。

「……ファレル?」
「……お願いだから、……しばらくこのままで……」
 途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
 ラインシェーグはどうして良いかわからず、ゆっくりと、背中に手を回して撫でる。
 落ち着くようにと。
 頬に触れる髪がくすぐったい。
 けれどそれよりも、いつもと違うファレルの様子にラインシェーグはうろたえていた。
 どうすればいいのかわからない。

 どのくらいそうしていたのか、ファレルは身じろぎすると彼から身体を離した。
「……ごめんなさい」
「いや……」
「……やっぱり、ラインシェーグは優しいよね」
 泣きそうな顔で、それでも笑って彼は言う。
「……泣きたければ、泣けばいい。……ここにいるから、だから……」

 だから。
 何と言うつもりだったのだろう。

 自分に、そんなことを言う資格が、あるのだろうか。
 確かな存在になることに不安を感じる自分に。
 ファレルは驚いた顔をして、それから笑った。
 いつもの、笑い方。
 こちらの気分まで明るくさせるような。
「ありがとう」
 彼女は屋上の縁に歩いていくと、空に向かって両手を広げた。
「夜になれば、空気が綺麗になるね」
 何が言いたいのかわからず、首を傾げる。
 何かをこらえるような、そんな表情でファレルが口を開く。
「私は、夜の方が好きだな……。日の光にも、憧れるけど……」
 自分には、届かないから。
 声にならない声が、聞こえた気がして。
「闇は、すべてを覆ってくれるの。……そう、何もかもを」
「ファレル……」
 いたたまれずに呼びかけると、くるりとこちらを向いた。
 彼女はためらいがちに、けれどきっぱりと言い切った。

「私は、ラインシェーグが好きよ」
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