小説用倉庫。
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彼は考えていた。
誰もいない、暗い自身の部屋の中で。
どうしたら。
どうすれば。
それは祈りのよう。
それとも何かの呪文のように。
ただそれだけを、長い長い、時間をかけて。
彼は思う。
その、方法を。
そして。
学院の屋上に上がって月を、空を見ていた。
静かな、自分だけの空間。
自分がまわりに溶け込んでいるような。
世界を構成するものと一体になっているような。
不確かな感覚。
吹き抜ける風の音を感じていると、背後の階段から、誰か来る気配がした。
気づかないふりで、空を見つづける。
誰もいなくなるまで。
きっとそれは。
「……」
すぐにいなくなるだろうと思っていたが、なかなか立ち去る気配が無い。
不審に思った彼は振り返って驚く。
「……ファレル……?」
肩にショールをかけて、静かにラインシェーグを見ている。
「……眠れないのか?」
ファレルは応えない。
不審に思って近寄ってみる。
近くに行くに連れて、彼女が震えているのがわかった。
唇をかみ締め、青い顔でじっと見つめている。
そのきんの髪に触れると、ファレルは一度痙攣して、それからラインシェーグに抱きついた。
「……ファレル?」
「……お願いだから、……しばらくこのままで……」
途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
ラインシェーグはどうして良いかわからず、ゆっくりと、背中に手を回して撫でる。
落ち着くようにと。
頬に触れる髪がくすぐったい。
けれどそれよりも、いつもと違うファレルの様子にラインシェーグはうろたえていた。
どうすればいいのかわからない。
どのくらいそうしていたのか、ファレルは身じろぎすると彼から身体を離した。
「……ごめんなさい」
「いや……」
「……やっぱり、ラインシェーグは優しいよね」
泣きそうな顔で、それでも笑って彼は言う。
「……泣きたければ、泣けばいい。……ここにいるから、だから……」
だから。
何と言うつもりだったのだろう。
自分に、そんなことを言う資格が、あるのだろうか。
確かな存在になることに不安を感じる自分に。
ファレルは驚いた顔をして、それから笑った。
いつもの、笑い方。
こちらの気分まで明るくさせるような。
「ありがとう」
彼女は屋上の縁に歩いていくと、空に向かって両手を広げた。
「夜になれば、空気が綺麗になるね」
何が言いたいのかわからず、首を傾げる。
何かをこらえるような、そんな表情でファレルが口を開く。
「私は、夜の方が好きだな……。日の光にも、憧れるけど……」
自分には、届かないから。
声にならない声が、聞こえた気がして。
「闇は、すべてを覆ってくれるの。……そう、何もかもを」
「ファレル……」
いたたまれずに呼びかけると、くるりとこちらを向いた。
彼女はためらいがちに、けれどきっぱりと言い切った。
「私は、ラインシェーグが好きよ」
誰もいない、暗い自身の部屋の中で。
どうしたら。
どうすれば。
それは祈りのよう。
それとも何かの呪文のように。
ただそれだけを、長い長い、時間をかけて。
彼は思う。
その、方法を。
そして。
学院の屋上に上がって月を、空を見ていた。
静かな、自分だけの空間。
自分がまわりに溶け込んでいるような。
世界を構成するものと一体になっているような。
不確かな感覚。
吹き抜ける風の音を感じていると、背後の階段から、誰か来る気配がした。
気づかないふりで、空を見つづける。
誰もいなくなるまで。
きっとそれは。
「……」
すぐにいなくなるだろうと思っていたが、なかなか立ち去る気配が無い。
不審に思った彼は振り返って驚く。
「……ファレル……?」
肩にショールをかけて、静かにラインシェーグを見ている。
「……眠れないのか?」
ファレルは応えない。
不審に思って近寄ってみる。
近くに行くに連れて、彼女が震えているのがわかった。
唇をかみ締め、青い顔でじっと見つめている。
そのきんの髪に触れると、ファレルは一度痙攣して、それからラインシェーグに抱きついた。
「……ファレル?」
「……お願いだから、……しばらくこのままで……」
途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
ラインシェーグはどうして良いかわからず、ゆっくりと、背中に手を回して撫でる。
落ち着くようにと。
頬に触れる髪がくすぐったい。
けれどそれよりも、いつもと違うファレルの様子にラインシェーグはうろたえていた。
どうすればいいのかわからない。
どのくらいそうしていたのか、ファレルは身じろぎすると彼から身体を離した。
「……ごめんなさい」
「いや……」
「……やっぱり、ラインシェーグは優しいよね」
泣きそうな顔で、それでも笑って彼は言う。
「……泣きたければ、泣けばいい。……ここにいるから、だから……」
だから。
何と言うつもりだったのだろう。
自分に、そんなことを言う資格が、あるのだろうか。
確かな存在になることに不安を感じる自分に。
ファレルは驚いた顔をして、それから笑った。
いつもの、笑い方。
こちらの気分まで明るくさせるような。
「ありがとう」
彼女は屋上の縁に歩いていくと、空に向かって両手を広げた。
「夜になれば、空気が綺麗になるね」
何が言いたいのかわからず、首を傾げる。
何かをこらえるような、そんな表情でファレルが口を開く。
「私は、夜の方が好きだな……。日の光にも、憧れるけど……」
自分には、届かないから。
声にならない声が、聞こえた気がして。
「闇は、すべてを覆ってくれるの。……そう、何もかもを」
「ファレル……」
いたたまれずに呼びかけると、くるりとこちらを向いた。
彼女はためらいがちに、けれどきっぱりと言い切った。
「私は、ラインシェーグが好きよ」
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