小説用倉庫。
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ざわざわと、周りの者たちが騒いでいた。
ラインシェーグはその中で何をするでもなく佇む。
他の院生たちとは、一線を引いて。
それが彼を遠ざけることになるとも気づかずに。
「今日は、実技テストの最終審査です」
長い黒髪をなびかせて、盲目の教師が皆に話し掛ける。
何故彼の目が見えなくなったのか、その理由を話しているのを聞いた気がするのに、ラインシェーグは覚えていなかった。
「……ラインシェーグ、ファレル。……前へ」
静かな声に従って、教師に近寄る。
「あなた方ふたりが、今期の学院生たちの中で最も力が強いです。……ですが、一応主席はひとりということになっていますので、これから出す課題をクリアしてください」
にっこりと微笑みながら。
そうして彼が出した課題は。
「召喚の、実技です」
精霊の召喚。
力のある6種の精霊と、さらに上にいる聖霊の。
そのどれかを。
周りのざわめきがいっそう高くなる。
召喚の魔法はきわめて難しく、院生たちはほとんどできない。
それを、あえて。
「……なんでも良いんですか?」
ファレルがあっけらかんとして問う。
その声音に苦笑して、教師が応える。
「えぇ、召喚することが大事なので。……ですが、試験ですので、自分のできる最高のものを召喚してください」
聞いている途中で聞こえないように溜息をつき、ラインシェーグは天井を見上げる。
綺麗なレリーフの施された、高い天井。
中央にあるのは6つの力の象徴か。
ふと、周りの声が遠ざかる。
「では、始めてください」
教師の声に視線を戻す。
ファレルはすぐに召喚の集中に入った。
それをしばらく見る。
「どうしたんですか?」
不思議そうに、教師が聞いてくる。
「……別に」
静かに答えてから、意識を集中させる。
空間を伝い、空に、大地に、すべての感覚を解き放つ。
風など吹かない空間のはずなのに、煽られたようにラインシェーグの髪が波立つ。
それはまわりにも影響した。
ありえない風を受けて生徒たちが一様に押し黙る。
そんなことはお構いなしにラインシェーグは続けている。
ゆっくりと、目を閉じ、右手を前に差し出す。
右手の先に、何かが形を取ろうとしている。
それは最初、空間の歪みのようで。
けれど確かな、力の存在。
「形を、成せ」
目を開け、静かに呟くその声に呼応するかのように、それは形をあらわした。
金の、光。
流れる黄金の髪を足元まで垂らし、そうして彼を見つめるその瞳の色は白に近い、銀色。
緩やかに、無い風を受けて髪が揺れている。
輝くばかりの光に包まれたそれは、確かに人間ではなく。
だけど人型をとれる精霊は、それだけど力の強い証。
「……これで、良いか?」
呆然としている教師に、低く呟く。
「ラインシェーグ……貴方は……」
「私も召喚、できましたよ」
さらりと、ファレルが言ってくる。
彼女の前にいるのは、ラインシェーグが召喚したのとは正反対の存在だった。
暗色の。
「……今まで召喚の実技で、光と闇の高位精霊を呼んだのはあなた方ふたりだけですよ」
呆れたように言う教師を一瞥してから、ラインシェーグは視線を移す。
「もういい」
その一言で、彼の召喚した聖霊は消えうせた。
痕跡すら残さず。
ファレルも同じように聖霊を解放している。
それを確認した教師が、溜息をつく。
「……今すぐはちょっと決められませんから、発表はまた後日にします」
言い置いて、部屋から出ていく。
「私たちも戻ろうよ」
笑って言うファレルに、ラインシェーグが薄く微笑み返す。
そのことに周りの者たちがなにやら騒いだが、彼は気にした風でもなく部屋から出た。
廊下を歩きながら、ファレルが興奮した面持ちで言う。
「でもびっくりしちゃった。やっぱりラインシェーグって凄いね! いきなり光の高位聖霊呼んじゃうんだもの!」
「それを言うなら君もだろう」
「私のは闇のほうだもの。……光の方がずっと難しいわ」
拗ねたように言う様がおかしくて、つい笑ってしまう。
「闇が呼べるなら、そのうち光も呼べるようになるさ」
「本当かしら」
「ああ」
それを言ったときの、嬉しそうな顔。
ああ、本当に彼女は綺麗に微笑う。
ふたりとも主席だといわれたのは、その数日後だった。
主席なんてめんどくさいと思ったけれど。
隣に、いつもあの笑顔があったから、何とかやってこれたのに。
彼女の存在は、本当に自分にとって救いになっていたのだと。
失うまで、わからなかった。
ラインシェーグはその中で何をするでもなく佇む。
他の院生たちとは、一線を引いて。
それが彼を遠ざけることになるとも気づかずに。
「今日は、実技テストの最終審査です」
長い黒髪をなびかせて、盲目の教師が皆に話し掛ける。
何故彼の目が見えなくなったのか、その理由を話しているのを聞いた気がするのに、ラインシェーグは覚えていなかった。
「……ラインシェーグ、ファレル。……前へ」
静かな声に従って、教師に近寄る。
「あなた方ふたりが、今期の学院生たちの中で最も力が強いです。……ですが、一応主席はひとりということになっていますので、これから出す課題をクリアしてください」
にっこりと微笑みながら。
そうして彼が出した課題は。
「召喚の、実技です」
精霊の召喚。
力のある6種の精霊と、さらに上にいる聖霊の。
そのどれかを。
周りのざわめきがいっそう高くなる。
召喚の魔法はきわめて難しく、院生たちはほとんどできない。
それを、あえて。
「……なんでも良いんですか?」
ファレルがあっけらかんとして問う。
その声音に苦笑して、教師が応える。
「えぇ、召喚することが大事なので。……ですが、試験ですので、自分のできる最高のものを召喚してください」
聞いている途中で聞こえないように溜息をつき、ラインシェーグは天井を見上げる。
綺麗なレリーフの施された、高い天井。
中央にあるのは6つの力の象徴か。
ふと、周りの声が遠ざかる。
「では、始めてください」
教師の声に視線を戻す。
ファレルはすぐに召喚の集中に入った。
それをしばらく見る。
「どうしたんですか?」
不思議そうに、教師が聞いてくる。
「……別に」
静かに答えてから、意識を集中させる。
空間を伝い、空に、大地に、すべての感覚を解き放つ。
風など吹かない空間のはずなのに、煽られたようにラインシェーグの髪が波立つ。
それはまわりにも影響した。
ありえない風を受けて生徒たちが一様に押し黙る。
そんなことはお構いなしにラインシェーグは続けている。
ゆっくりと、目を閉じ、右手を前に差し出す。
右手の先に、何かが形を取ろうとしている。
それは最初、空間の歪みのようで。
けれど確かな、力の存在。
「形を、成せ」
目を開け、静かに呟くその声に呼応するかのように、それは形をあらわした。
金の、光。
流れる黄金の髪を足元まで垂らし、そうして彼を見つめるその瞳の色は白に近い、銀色。
緩やかに、無い風を受けて髪が揺れている。
輝くばかりの光に包まれたそれは、確かに人間ではなく。
だけど人型をとれる精霊は、それだけど力の強い証。
「……これで、良いか?」
呆然としている教師に、低く呟く。
「ラインシェーグ……貴方は……」
「私も召喚、できましたよ」
さらりと、ファレルが言ってくる。
彼女の前にいるのは、ラインシェーグが召喚したのとは正反対の存在だった。
暗色の。
「……今まで召喚の実技で、光と闇の高位精霊を呼んだのはあなた方ふたりだけですよ」
呆れたように言う教師を一瞥してから、ラインシェーグは視線を移す。
「もういい」
その一言で、彼の召喚した聖霊は消えうせた。
痕跡すら残さず。
ファレルも同じように聖霊を解放している。
それを確認した教師が、溜息をつく。
「……今すぐはちょっと決められませんから、発表はまた後日にします」
言い置いて、部屋から出ていく。
「私たちも戻ろうよ」
笑って言うファレルに、ラインシェーグが薄く微笑み返す。
そのことに周りの者たちがなにやら騒いだが、彼は気にした風でもなく部屋から出た。
廊下を歩きながら、ファレルが興奮した面持ちで言う。
「でもびっくりしちゃった。やっぱりラインシェーグって凄いね! いきなり光の高位聖霊呼んじゃうんだもの!」
「それを言うなら君もだろう」
「私のは闇のほうだもの。……光の方がずっと難しいわ」
拗ねたように言う様がおかしくて、つい笑ってしまう。
「闇が呼べるなら、そのうち光も呼べるようになるさ」
「本当かしら」
「ああ」
それを言ったときの、嬉しそうな顔。
ああ、本当に彼女は綺麗に微笑う。
ふたりとも主席だといわれたのは、その数日後だった。
主席なんてめんどくさいと思ったけれど。
隣に、いつもあの笑顔があったから、何とかやってこれたのに。
彼女の存在は、本当に自分にとって救いになっていたのだと。
失うまで、わからなかった。
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管理者:西(逆凪)、または沖縞
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