小説用倉庫。
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「また、さぼってるの?」
はるか遠くを見ていた彼は、聞こえた声に振り返る。
昔。
まだ主席ではなかった頃だった。
彼女に会ったのは。
「……」
しばらくその顔を見つめて。
そうして彼はまた視線を移す。
空を。
小さく見える海を。
目に焼き付けるかのように。
その緑色の瞳で。
「……」
彼女もまた何も言わず、彼の、ラインシェーグの隣に立つ。
風が、吹き抜けていく。
「……何の用だ?」
ぼそりと、聞き取りにくい声でラインシェーグが言う。
「何を、しているのかなって……思っただけ」
ラインシェーグの方を見ずに、ファレルが応える。
静かな吐息。
幼い頃から学院にいるラインシェーグと違い、ファレルはつい最近ここに来た。
ファレルの力に気づいた両親が、彼女を売ったのだと。
そう、聞いていた。
考えて、自分も似たようなものかと淡く笑う。
捨て子の、自分には。
両親なんか知らない。
その分だけ、ファレルよりは辛くない。
捨てられて良かったと今は思う。
自分の、力にも気づけた。
たとえここに自分の居場所がなくても。
「ここは、空が高いね」
柔らかな草の上に身を横たえて、彼女は笑う。
屈託のない、顔で。
ラインシェーグは淡く微笑み、応える。
「そうだな……」
「やっと、笑ったね」
嬉しそうな声に苦笑して。
そういえばここ最近笑っていなかったと、気づく。
笑う必要さえ見出せなかったから。
だから彼はいつも何も言わず、笑わず、近寄りがたい雰囲気をもっていたのだ。
「みんな、ラインシェーグが怖いって言うの。何でだろうね」
本当に不思議そうに聞いてくるその様子に、思わずラインシェーグは笑う。
「いつもそうやって笑っていれば良いのに」
そう言って笑った彼女はもうどこにもいない。
そうして、鮮やかな残像だけを残し、自分の半身はいなくなった。
こんなにも唐突に、人間は死んでしまう。
なんて、脆い生き物なのか。
口の端が、笑みの形に歪む。
正気ではありえないような、微笑み。
虚ろな目は。
どこも見ていなかった。
はるか遠くを見ていた彼は、聞こえた声に振り返る。
昔。
まだ主席ではなかった頃だった。
彼女に会ったのは。
「……」
しばらくその顔を見つめて。
そうして彼はまた視線を移す。
空を。
小さく見える海を。
目に焼き付けるかのように。
その緑色の瞳で。
「……」
彼女もまた何も言わず、彼の、ラインシェーグの隣に立つ。
風が、吹き抜けていく。
「……何の用だ?」
ぼそりと、聞き取りにくい声でラインシェーグが言う。
「何を、しているのかなって……思っただけ」
ラインシェーグの方を見ずに、ファレルが応える。
静かな吐息。
幼い頃から学院にいるラインシェーグと違い、ファレルはつい最近ここに来た。
ファレルの力に気づいた両親が、彼女を売ったのだと。
そう、聞いていた。
考えて、自分も似たようなものかと淡く笑う。
捨て子の、自分には。
両親なんか知らない。
その分だけ、ファレルよりは辛くない。
捨てられて良かったと今は思う。
自分の、力にも気づけた。
たとえここに自分の居場所がなくても。
「ここは、空が高いね」
柔らかな草の上に身を横たえて、彼女は笑う。
屈託のない、顔で。
ラインシェーグは淡く微笑み、応える。
「そうだな……」
「やっと、笑ったね」
嬉しそうな声に苦笑して。
そういえばここ最近笑っていなかったと、気づく。
笑う必要さえ見出せなかったから。
だから彼はいつも何も言わず、笑わず、近寄りがたい雰囲気をもっていたのだ。
「みんな、ラインシェーグが怖いって言うの。何でだろうね」
本当に不思議そうに聞いてくるその様子に、思わずラインシェーグは笑う。
「いつもそうやって笑っていれば良いのに」
そう言って笑った彼女はもうどこにもいない。
そうして、鮮やかな残像だけを残し、自分の半身はいなくなった。
こんなにも唐突に、人間は死んでしまう。
なんて、脆い生き物なのか。
口の端が、笑みの形に歪む。
正気ではありえないような、微笑み。
虚ろな目は。
どこも見ていなかった。
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