小説用倉庫。
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「何だよ」
「あの子を、救ってやってくれないか」
苦しげに目を閉じる。
アィルは困惑したように問い返した。
「どうやって。俺が、……俺なんかが、どうやってあいつを救うことができるんだよ!」
ここに来るまでは自分でも何か役に立てるだろうかと。
思っていたのに。
実際は、無力だと思う。
自分には魔法は使えない。
どうしてヴィオルウスがふたりいたのかも、この変貌もわからないのに。
(俺は)
何も
(俺には)
わからない。
(何の力もないんだ!)
「そんなことないよ」
柔らかな声に思わず顔を上げる。
「君は、あの子が選んだ子だから」
微笑んで言われた言葉に、けれど顔を背けてしまう。
するとヴィオルウスの倒れている姿が目に入ってきた。
どうすれば。
「……きみが見た幻影。暗い影のヴィオルウスを起こすことができれば、あの子は元に戻れるんだよ」
ルシェイドが口を挟む。
「元、に……?」
怪訝そうにアィルが呟く。
「今のヴィオルウスは影。裏の……そうだな、人格だといっていいかもしれない。その影に、飲み込まれてしまっているんだよ。だから……」
「だから、そこから連れ出せって言うのか? やり方もわからないのに!」
半分、自棄になって吐き捨てる。
と、それまでほとんど喋らなかったディリクが口を開いた。
「……それを、教えるわけにはいかない。けれど、わかるはずだ。おまえなら」
「わかんねぇ……わかんねぇよ! 何で俺なんだ! おまえらは……」
言いかけて、はっと息を呑む。
3人の目に悲しみがよぎったのが見えてしまったから。
「……ディリクじゃ無理だし、僕がやろうとすれば壊してしまう」
どこか口惜しそうに。
ルシェイドはヴィオルウスに視線を向けて答えた。
一歩前に出て、グラディウスがアィルに近づく。
「……あのね、俺は、ヴィオルウスの父親なんだ。だから、こうなってしまった時に救おうとしたんだよ……けど、拒絶されちゃったんだ」
泣き笑いの表情でグラディウスが言う。
「仕方なかったのかもしれないけど、これ以上失敗するともう救えなくなるかもしれないから……だから、……だから」
「……わかったよ。でも、……どうすれば良いんだ?」
うなだれて言うと、ディリクが手を差し出した。
「これを……おまえに預ける。必ず返せ」
それは綺麗な宝石だった。
青い澄んだ色の。
「あとは、ヴィオルウスに、触れればいい。今の状態なら無防備だから……」
ルシェイドはアィルの腕を掴んで囁くように言った。
「……頼んだよ」
無言で肯定の意味を示し頷くと、ヴィオルウスの方に一歩近づく。
緊張しているのが自分でもわかる。
ヴィオルウスの傍らに膝をつき、手を触れた。
光が弾ける。
世界が回った気がした。
「あの子を、救ってやってくれないか」
苦しげに目を閉じる。
アィルは困惑したように問い返した。
「どうやって。俺が、……俺なんかが、どうやってあいつを救うことができるんだよ!」
ここに来るまでは自分でも何か役に立てるだろうかと。
思っていたのに。
実際は、無力だと思う。
自分には魔法は使えない。
どうしてヴィオルウスがふたりいたのかも、この変貌もわからないのに。
(俺は)
何も
(俺には)
わからない。
(何の力もないんだ!)
「そんなことないよ」
柔らかな声に思わず顔を上げる。
「君は、あの子が選んだ子だから」
微笑んで言われた言葉に、けれど顔を背けてしまう。
するとヴィオルウスの倒れている姿が目に入ってきた。
どうすれば。
「……きみが見た幻影。暗い影のヴィオルウスを起こすことができれば、あの子は元に戻れるんだよ」
ルシェイドが口を挟む。
「元、に……?」
怪訝そうにアィルが呟く。
「今のヴィオルウスは影。裏の……そうだな、人格だといっていいかもしれない。その影に、飲み込まれてしまっているんだよ。だから……」
「だから、そこから連れ出せって言うのか? やり方もわからないのに!」
半分、自棄になって吐き捨てる。
と、それまでほとんど喋らなかったディリクが口を開いた。
「……それを、教えるわけにはいかない。けれど、わかるはずだ。おまえなら」
「わかんねぇ……わかんねぇよ! 何で俺なんだ! おまえらは……」
言いかけて、はっと息を呑む。
3人の目に悲しみがよぎったのが見えてしまったから。
「……ディリクじゃ無理だし、僕がやろうとすれば壊してしまう」
どこか口惜しそうに。
ルシェイドはヴィオルウスに視線を向けて答えた。
一歩前に出て、グラディウスがアィルに近づく。
「……あのね、俺は、ヴィオルウスの父親なんだ。だから、こうなってしまった時に救おうとしたんだよ……けど、拒絶されちゃったんだ」
泣き笑いの表情でグラディウスが言う。
「仕方なかったのかもしれないけど、これ以上失敗するともう救えなくなるかもしれないから……だから、……だから」
「……わかったよ。でも、……どうすれば良いんだ?」
うなだれて言うと、ディリクが手を差し出した。
「これを……おまえに預ける。必ず返せ」
それは綺麗な宝石だった。
青い澄んだ色の。
「あとは、ヴィオルウスに、触れればいい。今の状態なら無防備だから……」
ルシェイドはアィルの腕を掴んで囁くように言った。
「……頼んだよ」
無言で肯定の意味を示し頷くと、ヴィオルウスの方に一歩近づく。
緊張しているのが自分でもわかる。
ヴィオルウスの傍らに膝をつき、手を触れた。
光が弾ける。
世界が回った気がした。
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