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2012/02/05 (Sun)
「……う……」
 小さく身動ぎをして、ルシェイドが目を開けた。
 ぼんやり周囲を見回し、そして俺に目を留めて跳ね起きた。
「ライナート! その傷……!」
「あぁ、今痛み止めを飲んだから問題はない」
「ないわけないでしょう! 左目……」
「もう見えない」

 感覚は痛みだけだ。
 視界は暗い。

 宣言すると、ルシェイドは深い溜め息をついて肩を落とした。
「……君はどうしてそういつもあっさりしてるのかな。片目が見えなくなったってのに」
「両目が見えなくなったわけじゃねぇだろ。見えれば良い」
 傷を追った当初より足元はしっかりしてる。
 ふらつくのは視界が慣れてない所為だ。
 ふと、ウォルファーが何か物言いたげに見ていたので、目線で問いかける。

「ごめん」
 いきなりの謝罪に眉をひそめる。
 何の事だか分からない。
 何を謝ってんだこいつは。

「怪我……俺が気をつけてれば平気だったのに……」
「……あ?」
 つい間の抜けた声が出てしまう。
「何がだ。俺が油断してたのがいけないんだろうが。お前が俺に謝る必要はない」
「……でも!」
 めんどくさいなと思いつつウォルファーを見て、ぎょっとした。

 彼は泣いていた。
 拳を握り締め、肩を震わせて。
 ルシェイドが俺に視線を送る。
「あー、泣かした」
「俺の所為か!?」

 困った。
 まさか泣くとは思わなかった。
 物問いたげなルシェイドの視線。
「あー」
 ガラじゃない。
 けどこのままにするわけにもいかない。

「……お前の所為じゃないよ」
 ぽん、と細かな石のついた髪を撫でる。
 ちりり、と石が小さく鳴った。
 一瞬止まったウォルファーは、直ぐに表情を歪ませ、更に泣き出してしまった。

「どうしろって言うんだよー……」
 げんなりと呟く俺の横で、ルシェイドが微笑ましそうに見ていた。





 その後、何とかウォルファーを宥めて泣き止ませ、救出した皆が既に自分の場所へ戻っている事を知ると、その場を後にした。
 それ以降、その施設には二度と行かなかった。
 行きたくはなかった。
 あんなもの、係わり合いになんざなりたかない。
 町には戻りにくいと言ったウォルファーは、人手不足もあって城に居着くようになった。
 後で知った事だが、どうやら町では異端として扱われていたらしい。
 それで助けに行こうとしたんだから、ずいぶんなお人好しだ。
 そうからかったら、酷く情けない顔をしていた。

 それから暫く後、リーヴァセウスが逝った。
 あの時から、随分無理をしていたらしい。
 戻った時に魔族としては短い寿命の理由を知ったけど、俺にとってそれは大した問題じゃなかった。

 ただ、悔しかった。
 今際の際、ありがとうと言った彼に、俺は一体何を返せただろう。
 あいつが俺を森から引きずり出した。

 居場所を、くれた。
 礼を言ってもらえる、何が返せたのか。

 答えは出ないまま、今日、新しい王としてグラディウスが即位する。
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