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2012/03/07 (Wed)
「……思ったより早かったな」
 無表情に淡々と、ディリクが口を開く。
 オルカーンへと視線を移すと、差し招いて足元を示す。
「レインを此処へ」
「……あんたは?」
 オルカーンが警戒も露わに聞く。
 そういえば紹介はしなかったなとルベアが思ったが、口を開くより早くディリクが答えた。
「ディリクだ。そんなことより早くしろ」
 まだ警戒しながらも、オルカーンは示された場所へと進み、ルベアもレインを降ろすのに手伝った。
「貴葉石樹は」
「これだが」
 荷物の中から布に包まれたそれを手渡す。
 ディリクは包みを解いて中身を確認し、一つ頷くと扉に向かう。
「確かに受け取った。少し待て」
 言い置いて部屋から出て行くディリクの背を見ながら、オルカーンが呟いた。
「……あの人あれで客商売できてんの?」
「……客はそれなりに入っているらしいぞ」
 小声で返し、レインを見下ろす。
 心なしか顔色が悪くなっている気がする。

 唯一の外との接点である扉に視線を送り、周りを見渡す。
 ディリクが戻ってこないことに苛立ち始めた頃、音も無く扉が開き、店の主人が姿を現した。
「ルベア」
 名を呼ばれ、はっとして顔を上げる。
「シオンに行ってきてくれないか」
「え……」
 何を言われたのか一瞬理解できなかった。
「レインを治して貰う条件ってこと?」
 低く唸りながらオルカーンが口を挟む。
「いや。違う」
「じゃあ何で! レインの状態も良く見てなかったのに!」
 オルカーンが声を張った。
 どうやら待たされてイライラしていたのはルベアだけではないらしい。
「……状態? 魔獣の毒だろう? 毒性は調べたから問題は無い」
 淡々と、オルカーンの声にも怯むことなく答える。
 ルベアが訝しげに問う。
「調べた?」
「魔獣の毒であることは聞いていたから、その種類を調べていた」
「聞いてたって誰に」
「シェンディルに。何の魔獣かは知らなかったようだが」
「なら治せるのか?」
「あぁ。だからシオンの村に行ってこれを取ってきてくれ」
 頷いて、小さな紙片を手渡してきた。
「レインは」
 受け取らず、執拗なまでに質問を続ける。
 ディリクは溜め息を吐いて、重々しく口を開いた。
「……魔獣の毒というのは普通の薬草だけでは解毒が出来ない。薬草と魔法を組み合わせて解毒する。その為の媒体を今切らしているんだ。だから取ってきて欲しいんだが」
 不意にオルカーンがディリクに聞いた。
「魔獣の毒だって知ってたんだろ? 何で、その、媒体が無いんだ?」
「言っただろう。種類は特定できていなかったんだ。新しい魔獣ならばまだ楽だったんだが、かなり古いものだったからな」
 差し出されたままの紙片を見ながら逡巡し、ルベアは徐にそれを受け取った。
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