小説用倉庫。
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じっとレインの顔を凝視し、シェンディルは徐に口を開いた。
「誰かの魔法がありましたわ」
きょとんとしてレインはルベアを見、次いでオルカーンを見た。
「俺たち見たって知らないよ」
「うー……どういうこと?」
「事故があったとか、そういうのではなく、貴方の記憶が消えたことに魔法が関与している、ということですわ」
「誰かがレインの記憶を魔法で消したのか?」
ルベアが眉間に皺を寄せて問うと、シェンディルは困ったように瞬きをした。
「其処までは判りませんわ。当事者じゃありませんもの。最初に一度失敗したのは、魔法が関わっているとは思わなかったからですし。……あぁでも一つだけ」
ふと、思い出したかのようにシェンディルが呟く。
「今の魔法と、同じ気配を昔感じたことがありますわ」
「何処で?」
オルカーンが腰を浮かせて聞く。
「あれは確か東の……トゥーディス大陸だったと思います。聞き覚えはありませんか? 東で、一つの町が滅びた話を」
全員の視線がルベアに集まる。
レインは記憶が無い。
多分オルカーンも知らないのだろう。
その話は知っていた。
伝え聞く渦中の人物。
「……そういうことか」
呟くと、シェンディルが不安そうに眉を寄せて頷いた。
「何? 二人で分かってないで教えてよー」
レインがもどかしげに服の裾を掴む。
「20年ほど前の話だ。一つの町が一夜の内に滅びた。町の住民はただ一人を除いて全員が殺されたんだ」
其処彼処に死体があった。
いつもと変わりなかったはずの夜は重苦しい静寂に支配された。
血に濡れた石畳は月光を浴びて光り、空気は血と汚物、焼かれた肉の臭いに満ちていた。
瞼の裏に蘇る光景を振り切るように、ルベアは言葉を紡いだ。
「その町を滅ぼした人物は青銀の髪を長く伸ばしていた……。お前の、髪に少し似ている」
そう言って、ルベアはレインを指差した。
オルカーンが、あ、と声を上げる。
まだ分かってないらしいレインは首を傾げたままだ。
溜め息を一つ吐く。
「……ルシェイドが、お前の血縁者が居ると言っていただろう」
「あ、じゃあその人がオレの記憶に関係してるのかな」
「可能性だがな。もしその話の人物が血縁者なら、この世界の何処かに居るって事だ」
「じゃあその人捜せば良いんだねー」
「一つの町を滅ぼした人物を?」
あっけらかんと笑うレインに、オルカーンが嫌そうな顔をする。
「まぁ問題は無いんじゃない?」
根拠の無い自信に、ルベアとオルカーンが同時に溜め息を吐く。
シェンディルがくすくすと笑った。
「ルシェイドは随分貴方達を気にいっているようですわね」
「そうか?」
「えぇ。助言なんて珍しいですわ」
笑いながら、ウェルと同じようなことを言う。
「さて、あまり直接的な役には立てなかったようですが、一つ、お願いをしても宜しいかしら?」
にこりと笑んだ表情に、ルベアが顔を顰める。
占いの対価として、というなら引き受けるしかない。
「何を?」
「手伝って欲しいことがありますのよ。此処から山頂へ行く途中に、毒を放つ魔獣がいるんですの。それを退治して欲しいのですわ」
「……毒?」
訝しげに問い掛ける横で、レインが声を上げた。
「近くにあれない?」
「……あれ、とは何ですの?」
眉を寄せて首を傾げる。
当然の反応だろう。
「何だっけ?」
レインがルベアを見て首を傾げた。
「……覚えて置けそのくらい。貴葉石樹だ」
溜め息と共に言うと、シェンディルは軽く頷いた。
「ありますわよ。あのままでは周りへの被害が広がる一方ですし、わたくし移植しておきましたから」
それが欲しいんですの? と問われ、オルカーンが頷く。
「なら明日にでも行こうよ!」
はしゃぐレインを見てルベアが溜め息を吐く。
ふと、シェンディルが見ていることに気づく。
射るような視線。
敵意ではなく。
強い意思でもって。
しかし直ぐに視線をレインに移すと、では早く寝ないといけませんわねと言って笑った。
「誰かの魔法がありましたわ」
きょとんとしてレインはルベアを見、次いでオルカーンを見た。
「俺たち見たって知らないよ」
「うー……どういうこと?」
「事故があったとか、そういうのではなく、貴方の記憶が消えたことに魔法が関与している、ということですわ」
「誰かがレインの記憶を魔法で消したのか?」
ルベアが眉間に皺を寄せて問うと、シェンディルは困ったように瞬きをした。
「其処までは判りませんわ。当事者じゃありませんもの。最初に一度失敗したのは、魔法が関わっているとは思わなかったからですし。……あぁでも一つだけ」
ふと、思い出したかのようにシェンディルが呟く。
「今の魔法と、同じ気配を昔感じたことがありますわ」
「何処で?」
オルカーンが腰を浮かせて聞く。
「あれは確か東の……トゥーディス大陸だったと思います。聞き覚えはありませんか? 東で、一つの町が滅びた話を」
全員の視線がルベアに集まる。
レインは記憶が無い。
多分オルカーンも知らないのだろう。
その話は知っていた。
伝え聞く渦中の人物。
「……そういうことか」
呟くと、シェンディルが不安そうに眉を寄せて頷いた。
「何? 二人で分かってないで教えてよー」
レインがもどかしげに服の裾を掴む。
「20年ほど前の話だ。一つの町が一夜の内に滅びた。町の住民はただ一人を除いて全員が殺されたんだ」
其処彼処に死体があった。
いつもと変わりなかったはずの夜は重苦しい静寂に支配された。
血に濡れた石畳は月光を浴びて光り、空気は血と汚物、焼かれた肉の臭いに満ちていた。
瞼の裏に蘇る光景を振り切るように、ルベアは言葉を紡いだ。
「その町を滅ぼした人物は青銀の髪を長く伸ばしていた……。お前の、髪に少し似ている」
そう言って、ルベアはレインを指差した。
オルカーンが、あ、と声を上げる。
まだ分かってないらしいレインは首を傾げたままだ。
溜め息を一つ吐く。
「……ルシェイドが、お前の血縁者が居ると言っていただろう」
「あ、じゃあその人がオレの記憶に関係してるのかな」
「可能性だがな。もしその話の人物が血縁者なら、この世界の何処かに居るって事だ」
「じゃあその人捜せば良いんだねー」
「一つの町を滅ぼした人物を?」
あっけらかんと笑うレインに、オルカーンが嫌そうな顔をする。
「まぁ問題は無いんじゃない?」
根拠の無い自信に、ルベアとオルカーンが同時に溜め息を吐く。
シェンディルがくすくすと笑った。
「ルシェイドは随分貴方達を気にいっているようですわね」
「そうか?」
「えぇ。助言なんて珍しいですわ」
笑いながら、ウェルと同じようなことを言う。
「さて、あまり直接的な役には立てなかったようですが、一つ、お願いをしても宜しいかしら?」
にこりと笑んだ表情に、ルベアが顔を顰める。
占いの対価として、というなら引き受けるしかない。
「何を?」
「手伝って欲しいことがありますのよ。此処から山頂へ行く途中に、毒を放つ魔獣がいるんですの。それを退治して欲しいのですわ」
「……毒?」
訝しげに問い掛ける横で、レインが声を上げた。
「近くにあれない?」
「……あれ、とは何ですの?」
眉を寄せて首を傾げる。
当然の反応だろう。
「何だっけ?」
レインがルベアを見て首を傾げた。
「……覚えて置けそのくらい。貴葉石樹だ」
溜め息と共に言うと、シェンディルは軽く頷いた。
「ありますわよ。あのままでは周りへの被害が広がる一方ですし、わたくし移植しておきましたから」
それが欲しいんですの? と問われ、オルカーンが頷く。
「なら明日にでも行こうよ!」
はしゃぐレインを見てルベアが溜め息を吐く。
ふと、シェンディルが見ていることに気づく。
射るような視線。
敵意ではなく。
強い意思でもって。
しかし直ぐに視線をレインに移すと、では早く寝ないといけませんわねと言って笑った。
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管理者:西(逆凪)、または沖縞
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