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2012/02/27 (Mon)
 空気が少しずつ張り詰めていく。
「この先か?」
「えぇ」
 慎重に歩を進めていく。
 ゆっくりと、極力音を立てないように。
「レイン」
 ついていこうとした彼を呼び止める。
「何?」
「お前は下がってろ」
 小声で言うと、レインは不満そうな表情をした後、渋々その場で足を止めた。
 自分が戦力にならないことは、弁えているらしい。
 レインが繁みに潜むのを確認して、注意を前方に戻す。
 進むうちに、周囲を異臭が漂い始めた。
「何だこの臭い」
 オルカーンが顔を顰めながら言う。
 嗅覚に優れた彼には辛いだろう。
「魔獣が近いということですわ」
 声が心なしか硬い。
 不意に前方を歩いていたシェンディルが沈む。
 慌てて傍によると、しゃがむよう指示された。
 襲撃があったわけではないと知って胸をなでおろし、その場にしゃがむ。
「居ましたわ」
 短く言い、前方を指差す。
 声には嫌悪感が滲んでいた。
 それの姿を見た瞬間、ルベアにもその意味が分かった。
 それは、明確な何かの形はしていなかった。
 ドロドロと流動し、蠢いている。
 ルベアよりも頭一つ分低い高さの、泥の山という表現が近いかもしれない。
 臭気を発する泥だが。
 何かの目的があるように、それは山頂を目指して進んでいた。
 移動した跡の地面は、ぬめりを帯びて黒く変色してしまっている。
 あれが、毒だろうかと考えて、訝しげにシェンディルに問う。
「……おい、あれに物理攻撃は利くのか?」
「周りのドロドロしたものには利きませんわ。むしろ剣が侵食されます。あれはわたくしが引き剥がしますから、中身をお願い致しますわ」
「分かった」
 ルベアとオルカーンが頷くのと同時に、シェンディルは両手を前に突き出した。
 頬に感じる熱風。
「炎!」
 鋭く吐き出された言葉に合わせて、両の掌から炎が噴出した。
 それは狙い違わず泥の塊にぶつかり、燃え上がらせた。
「耐熱防御をかけます。お二方、お願いしますわ」
 視線は前方に見据えたまま、シェンディルが声をかける。
 その声を合図に、ルベアとオルカーンが飛び出す。
 先程までの熱風はあまり感じない。
 近づくと同時に炎が渦を巻き、焼け爛れた泥が周囲に撒き散らされる。
 オルカーンが先行して飛び掛り、僅かに見えた泥の中へ牙を突きたてた。
 身を振って逃れようとする泥を、牙と爪で引き剥がす。
 黒い半身を露わにしたそれを、ルベアが両断した。
 斬られた所からずるりと溶けはじめると、火を上げていた周りの泥も地面に吸い込まれるように消えていった。
 後には黒く染まった地面だけが残った。
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