忍者ブログ
小説用倉庫。
HOME 257  258  259  260  261  262  263  264  265  266  267 
2024/11/22 (Fri)
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2012/02/23 (Thu)
 シェンディルはお茶を一口飲んでからカップを横に置き、三人に向き直った。
「それで、わたくしに会いに来た用件を伺いましょう」
 かたりと小さな音を立ててレインがカップを下ろした。
「あのね、オレは自分の記憶が無いんだ。だからそれを探してるの。何か手がかりでも良いからわかるかなって」
「記憶……?」
 シェンディルは小首を傾げてレインを凝視した後、視線を伏せた。
「分かりましたわ。……やってみましょう」
 言って、姿勢を正す。
 空気が張り詰めた。
「……古より深き者……」
 歌うような旋律が、シェンディルの薄く開いた唇から流れていく。
 俗に言う詠唱魔法の類らしい。
 ルベアは魔法に詳しくないので分からないが、詠唱魔法の類だけは音律がないと発動しないという。
 風も無いのに、シェンディルの纏められた髪がふわりと靡く。
 最初見たときからただの小さな子供の印象しかなかったが、詠唱中の彼女はどこか神秘的な雰囲気を醸し出していた。
 思わず見とれていると、シェンディルは僅かに眉を顰めた。
 じっと見ていなければ判らないほどの微かな変化。
 けれど次の瞬間、音律が乱れた。
 詠唱魔法にとって何より大事なのは言葉と音。
 それが崩れてしまっては発動はありえない。
 そして失敗には手酷い返しがある。
 シェンディルは目を見開き、詠唱を打ち切った。
 音は乱れ、部屋は風が吹き始めていた。
 床に置いたカップが揺れる。
「言の葉は我が内より出で、世界を震わす音となる。世界の無い場所では音は霧散し響かない!」
 一息にそこまで言い終えると、シェンディルは息を吐いた。
 途端、風が嘘のように静まり返る。
 シェンディルは難しい顔をして長い溜め息をはいた。
「ど、どうしたの?」
 不安そうに問い掛けるレインに視線を向け、シェンディルは表情を引き締めた。
「妨害があるなんて聞いてませんわよ……。もう一度、やります」
 ぼそりと小声で悪態を吐いて、彼女はまた詠唱を始めた。
 ルベアが訝しげに眉をひそめる。
 先程聞いた詠唱と、僅かに違う気がしたからだ。
 見た目は先程と変わらない。
 あまり詳しくない自分がとやかく言っても時間の無駄だ。
 そう思い、ルベアはお茶を一口、口に含んだ。
 流れるような詠唱。
 高く、低く、部屋に満ちるかのような音の波。
 オルカーンがうっとりとした様子で聞き入っているのが視界の隅に入った。
「……!」
 シェンディルの詠唱が途切れると同時に、レインが驚きに息を呑む。
 きらきらとした光の糸が、レインの周りを取り囲んでいた。
 何処から現れているのかは判らない。
 空間に直接生えているかのようだ。
 シェンディルが伏せていた目を開く。
 それと同時に光の糸は微かな軌跡を残して消えうせた。
Comment
Name
Title
Color
Mail
URL
Comment   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Password
HOME 257  258  259  260  261  262  263  264  265  266  267 
HOME
Copyright(C)2001-2012 Nishi.All right reserved.
倉庫
管理者:西(逆凪)、または沖縞

文章の無断転載及び複製は禁止。
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新記事
[長編] Reparationem damni  (03/12)
[長編] Reparationem damni  (03/12)
[長編] Reparationem damni  (10/19)
[長編] Reparationem damni  (10/19)
[長編] Reparationem damni  (09/07)
忍者ブログ [PR]
PR