小説用倉庫。
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シェンディルはお茶を一口飲んでからカップを横に置き、三人に向き直った。
「それで、わたくしに会いに来た用件を伺いましょう」
かたりと小さな音を立ててレインがカップを下ろした。
「あのね、オレは自分の記憶が無いんだ。だからそれを探してるの。何か手がかりでも良いからわかるかなって」
「記憶……?」
シェンディルは小首を傾げてレインを凝視した後、視線を伏せた。
「分かりましたわ。……やってみましょう」
言って、姿勢を正す。
空気が張り詰めた。
「……古より深き者……」
歌うような旋律が、シェンディルの薄く開いた唇から流れていく。
俗に言う詠唱魔法の類らしい。
ルベアは魔法に詳しくないので分からないが、詠唱魔法の類だけは音律がないと発動しないという。
風も無いのに、シェンディルの纏められた髪がふわりと靡く。
最初見たときからただの小さな子供の印象しかなかったが、詠唱中の彼女はどこか神秘的な雰囲気を醸し出していた。
思わず見とれていると、シェンディルは僅かに眉を顰めた。
じっと見ていなければ判らないほどの微かな変化。
けれど次の瞬間、音律が乱れた。
詠唱魔法にとって何より大事なのは言葉と音。
それが崩れてしまっては発動はありえない。
そして失敗には手酷い返しがある。
シェンディルは目を見開き、詠唱を打ち切った。
音は乱れ、部屋は風が吹き始めていた。
床に置いたカップが揺れる。
「言の葉は我が内より出で、世界を震わす音となる。世界の無い場所では音は霧散し響かない!」
一息にそこまで言い終えると、シェンディルは息を吐いた。
途端、風が嘘のように静まり返る。
シェンディルは難しい顔をして長い溜め息をはいた。
「ど、どうしたの?」
不安そうに問い掛けるレインに視線を向け、シェンディルは表情を引き締めた。
「妨害があるなんて聞いてませんわよ……。もう一度、やります」
ぼそりと小声で悪態を吐いて、彼女はまた詠唱を始めた。
ルベアが訝しげに眉をひそめる。
先程聞いた詠唱と、僅かに違う気がしたからだ。
見た目は先程と変わらない。
あまり詳しくない自分がとやかく言っても時間の無駄だ。
そう思い、ルベアはお茶を一口、口に含んだ。
流れるような詠唱。
高く、低く、部屋に満ちるかのような音の波。
オルカーンがうっとりとした様子で聞き入っているのが視界の隅に入った。
「……!」
シェンディルの詠唱が途切れると同時に、レインが驚きに息を呑む。
きらきらとした光の糸が、レインの周りを取り囲んでいた。
何処から現れているのかは判らない。
空間に直接生えているかのようだ。
シェンディルが伏せていた目を開く。
それと同時に光の糸は微かな軌跡を残して消えうせた。
「それで、わたくしに会いに来た用件を伺いましょう」
かたりと小さな音を立ててレインがカップを下ろした。
「あのね、オレは自分の記憶が無いんだ。だからそれを探してるの。何か手がかりでも良いからわかるかなって」
「記憶……?」
シェンディルは小首を傾げてレインを凝視した後、視線を伏せた。
「分かりましたわ。……やってみましょう」
言って、姿勢を正す。
空気が張り詰めた。
「……古より深き者……」
歌うような旋律が、シェンディルの薄く開いた唇から流れていく。
俗に言う詠唱魔法の類らしい。
ルベアは魔法に詳しくないので分からないが、詠唱魔法の類だけは音律がないと発動しないという。
風も無いのに、シェンディルの纏められた髪がふわりと靡く。
最初見たときからただの小さな子供の印象しかなかったが、詠唱中の彼女はどこか神秘的な雰囲気を醸し出していた。
思わず見とれていると、シェンディルは僅かに眉を顰めた。
じっと見ていなければ判らないほどの微かな変化。
けれど次の瞬間、音律が乱れた。
詠唱魔法にとって何より大事なのは言葉と音。
それが崩れてしまっては発動はありえない。
そして失敗には手酷い返しがある。
シェンディルは目を見開き、詠唱を打ち切った。
音は乱れ、部屋は風が吹き始めていた。
床に置いたカップが揺れる。
「言の葉は我が内より出で、世界を震わす音となる。世界の無い場所では音は霧散し響かない!」
一息にそこまで言い終えると、シェンディルは息を吐いた。
途端、風が嘘のように静まり返る。
シェンディルは難しい顔をして長い溜め息をはいた。
「ど、どうしたの?」
不安そうに問い掛けるレインに視線を向け、シェンディルは表情を引き締めた。
「妨害があるなんて聞いてませんわよ……。もう一度、やります」
ぼそりと小声で悪態を吐いて、彼女はまた詠唱を始めた。
ルベアが訝しげに眉をひそめる。
先程聞いた詠唱と、僅かに違う気がしたからだ。
見た目は先程と変わらない。
あまり詳しくない自分がとやかく言っても時間の無駄だ。
そう思い、ルベアはお茶を一口、口に含んだ。
流れるような詠唱。
高く、低く、部屋に満ちるかのような音の波。
オルカーンがうっとりとした様子で聞き入っているのが視界の隅に入った。
「……!」
シェンディルの詠唱が途切れると同時に、レインが驚きに息を呑む。
きらきらとした光の糸が、レインの周りを取り囲んでいた。
何処から現れているのかは判らない。
空間に直接生えているかのようだ。
シェンディルが伏せていた目を開く。
それと同時に光の糸は微かな軌跡を残して消えうせた。
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