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2012/02/23 (Thu)
「何か言いたいことがあるのか」
 夜もふけた頃、ルベアは傍らに立つシェンディルに問い掛けた。
 他の二人はテントで眠っている。
 問い掛けた理由は、視線の意味。
 シェンディルは暫く空を眺めていた。
 先程の問いが聞こえなかったかのように。
 つられてルベアも空を見上げる。
 木々は濃い影となり、紺色の空との境目をはっきりと主張していた。
 月が半分、山頂に隠れている。
 その周りで星が瞬いているのが見えた。
 標高が高い所為か、外は肌寒い。
「生き残りは、貴方ですわね」
 ぽつりと、小声でシェンディルが言った。
 囁きに近かった声音は、周りの静寂の為にはっきりと聞こえた。
 滅びた町の生き残り。
 ただ一人の。
 ルベアは何も言わない。
 けれどその沈黙は肯定の証。
「……殺気立たないでくださいまし。別に言いふらしたりなど趣味の悪い真似は致しませんわ」
 溜め息と共に言われて、ルベアは視線を空から地面に落とす。
 淡い自分の影は、地面との堺すら曖昧だ。
「貴方、何を考えてますの? 先程お話したときは平静を保っていたようでしたけど、わたくしの目は誤魔化せなくてよ。……まだ、立ち直れてはいなさそうですし」
 立ち直る。
 そんな事が出来るのだろうか?
 あの日、あの場所で。
 世界が赤く暗く染め上げられたその場に居合わせながら。
 唇が笑みの形に歪む。
「敵討ちというなら止めておきなさい。あんなものはただの自己満足に過ぎない……失ったものは戻ってこない。いえ、かえって失うものの方が大きいですわ」
「……知った風な口を聞く」
 自嘲気味に吐き捨てると、シェンディルは怯むことなく胸を張って見せた。
「年長者の言うことは聞いておくべきでしてよ」
 暗い思考に沈んでいこうとしていた頭が、一瞬空白に陥る。
「え」
「あら、気づきませんでしたの? わたくしもあの場に行きましたのよ。……尤も、行った時はすべて終わってましたけど」
 そこではじめて、シェンディルはルベアに視線を向けた。
「貴方のことも、覚えていましてよ。……まさかこんな格好いい青年に成長するとは思ってませんでしたけど」
 おどけたように肩を竦めて見せるシェンディルに、ルベアは片眉をあげて応えた。
「俺は覚えていない」
「それはそうでしょう。貴方あの時周り何も見てませんでしたもの」
 きっぱりと言う。
 ルベアの記憶は、あの夜以降は曖昧に霧がかかったようになっている。
 気がつけば剣を習い始めていた。
 師に聞くと、自分から申し出たらしい。
「……赦すことは、できませんの?」
「赦せると、思うのか?」
 淡々と問い返す。
 案の定、シェンディルは言葉に詰まった。
 困らせようと思って言っているわけではない。
「……あまり、思いませんわ」
 思いがけない答えに、ルベアは目を見開く。
 頭ごなしに止めろと言われると思っていた。
「止められない思いは、わたくしにもわかりますもの。……意外そうな顔ですわね」
 ルベアの顔を見て苦笑し、視線を空に戻す。
「敵討ちなんて虚しいだけですわ。……だからこそ、貴方を止めたいと思いますの。……あんな虚無は、他の誰にも、味わって欲しくは無いものですわ」
 何処か遠くを見る目。
 長い、苦渋を見てきた目だ。
 その目を見て、はじめて彼女が年上であると実感できた。
 彼女も、復讐に立ったことがあるのだろうか。
「貴方の敵を見つけたとき、自分に問うてくださいまし。本当にそれでいいのか。本当にそれで……後悔しないのか。貴方を想う者も居る事を、忘れないで欲しいのですわ」
「想う、者?」
 怪訝そうに問うと、シェンディルは面白そうに笑って言った。
「あら、近くにいるじゃありませんの。あの二人のことですわ。……もちろん、わたくしもでしてよ」
 片目を瞑ってみせたシェンディルに、ルベアは苦笑した。
「……覚えておこう」
 その答えに、シェンディルは満足そうに笑った。
「さぁ、そろそろ寝てくださいまし。睡眠不足で動けない、とか甘いこと言いましたら、叩きますわよ」
 両手を腰に当てて言い放つシェンディルに、もの問いたそうに見やると、彼女はきょとんとしてから納得したように頷いた。
「わたくしはまだやることが残ってますの。お先に寝ていてくださいまし」
「……分かった」
 軽く手を上げて、ルベアはテントの中へ入った。
 用意された寝台に入ると、オルカーンが傍に寄ってきて丸くなった。
 ふかふかした毛皮が手に触れる。
 暖かい。
 傍に寄って来た理由に直ぐに思い当たったルベアは、オルカーンの頭を小突いた。
「お前聞いてたな」
「……聞こえるんだよ。俺は耳が良いから」
 言い訳がましく言って、ルベアに擦り寄る。
 ルベアは溜め息を吐いた。
 押し退ける事も出来たが、暖かいから良いか、と思い直してそのまま横になった。
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