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2012/02/05 (Sun)
「何やってるんだよッ!!」

 突然聞こえた声はいやというほど聞きなれたそれ。
「踏青……」

 半ば驚いてそちらに気を取られた隙を、彼は見逃さなかったようだ。

「……ッ……!」
 ロウは身を起こすと同時に、剣の切っ先で肩先を抉ってくる。
 痛みに顔をしかめ、血の溢れ出す肩を反対の手で抑えた。

「薄氷ッ!」
「黙れ! この……馬鹿!」

 踏青のほうを見もせずに怒鳴る。
 視線はロウの剣の先。
 滴り落ちる血はすぐに雨に流されていく。

 あと一歩踏み込めば、きっと心の臓を貫かれる。
 じり、とロウが歩を進める。
 それに合わせて下がる。体勢を崩さないように。
「薄氷……!」
「何しにきた」

「……いいじゃ、ないですか。兄上……」
 かき消されそうなほどの声音で呟くと、ロウが勢い良く踏み込んできた。

「観客がいたほうが緊張感があるでしょう!」

 叫び。
 笑っている。

 本当に?

 とっさに手に持った短剣の柄でロウの剣を弾く。
 けれど返す刀で振り下ろされ、先ほどの傷をまた切られた。
 先程よりも鮮やかに、ロウを見据える。
 虚ろな目で笑っている弟は、もはや昔の彼には見えなかった。

「……許せ」


 きっと雨にかき消されたであろう呟きをその場に吐き捨て、地を蹴る。

 直進するこちらに対して、ロウは剣を水平に突き出した。
 眉間を狙った、突き。
 紙一重で交わし、剣を弾き飛ばす。
 回転するように飛んだそれは、踏青の足元に突き立った。
「……兄上」
「すまんな……」
 囁く。
 聞こえはしないと知りながら。

 抱きしめるように腕を広げたロウにぶつかるように、剣を胸につきたてる。
「ごめんなさい、兄上……」
 血の臭いの濃い声で、ふわりと笑う。
 それは昔のままの顔で。
 崩れ落ちる身体を思わず抱きとめる。
 彼の体の重さに、膝を突いて。

「薄氷……ッ! 何で……」
 踏青が足元の剣をそのままに、こちらに走り寄ってくる。
「……」
 ぼんやりとそちらを見て、踏青の後ろに人影があることに気づく。
 鮮やかな青緑の髪は。
「……ルシェイド……?」
「エル……」
 肩で息をしながら、呆然とこちらを見ている。
「……遅かったな」
 ぼそりと言う。
 ふたりとも近寄りがたいかのようにその場に立ち止まっている。

 ふと、目を閉じたロウの顔に目をやる。
「馬鹿なやつだ」
 囁くように言って俯く。

 目がかすんでいた。
 それが雨の所為なのか、失いすぎた血の所為なのか判断できなかったが、ただ弟の顔が、目に焼きついていた。
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