小説用倉庫。
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「何やってるんだよッ!!」
突然聞こえた声はいやというほど聞きなれたそれ。
「踏青……」
半ば驚いてそちらに気を取られた隙を、彼は見逃さなかったようだ。
「……ッ……!」
ロウは身を起こすと同時に、剣の切っ先で肩先を抉ってくる。
痛みに顔をしかめ、血の溢れ出す肩を反対の手で抑えた。
「薄氷ッ!」
「黙れ! この……馬鹿!」
踏青のほうを見もせずに怒鳴る。
視線はロウの剣の先。
滴り落ちる血はすぐに雨に流されていく。
あと一歩踏み込めば、きっと心の臓を貫かれる。
じり、とロウが歩を進める。
それに合わせて下がる。体勢を崩さないように。
「薄氷……!」
「何しにきた」
「……いいじゃ、ないですか。兄上……」
かき消されそうなほどの声音で呟くと、ロウが勢い良く踏み込んできた。
「観客がいたほうが緊張感があるでしょう!」
叫び。
笑っている。
本当に?
とっさに手に持った短剣の柄でロウの剣を弾く。
けれど返す刀で振り下ろされ、先ほどの傷をまた切られた。
先程よりも鮮やかに、ロウを見据える。
虚ろな目で笑っている弟は、もはや昔の彼には見えなかった。
「……許せ」
きっと雨にかき消されたであろう呟きをその場に吐き捨て、地を蹴る。
直進するこちらに対して、ロウは剣を水平に突き出した。
眉間を狙った、突き。
紙一重で交わし、剣を弾き飛ばす。
回転するように飛んだそれは、踏青の足元に突き立った。
「……兄上」
「すまんな……」
囁く。
聞こえはしないと知りながら。
抱きしめるように腕を広げたロウにぶつかるように、剣を胸につきたてる。
「ごめんなさい、兄上……」
血の臭いの濃い声で、ふわりと笑う。
それは昔のままの顔で。
崩れ落ちる身体を思わず抱きとめる。
彼の体の重さに、膝を突いて。
「薄氷……ッ! 何で……」
踏青が足元の剣をそのままに、こちらに走り寄ってくる。
「……」
ぼんやりとそちらを見て、踏青の後ろに人影があることに気づく。
鮮やかな青緑の髪は。
「……ルシェイド……?」
「エル……」
肩で息をしながら、呆然とこちらを見ている。
「……遅かったな」
ぼそりと言う。
ふたりとも近寄りがたいかのようにその場に立ち止まっている。
ふと、目を閉じたロウの顔に目をやる。
「馬鹿なやつだ」
囁くように言って俯く。
目がかすんでいた。
それが雨の所為なのか、失いすぎた血の所為なのか判断できなかったが、ただ弟の顔が、目に焼きついていた。
突然聞こえた声はいやというほど聞きなれたそれ。
「踏青……」
半ば驚いてそちらに気を取られた隙を、彼は見逃さなかったようだ。
「……ッ……!」
ロウは身を起こすと同時に、剣の切っ先で肩先を抉ってくる。
痛みに顔をしかめ、血の溢れ出す肩を反対の手で抑えた。
「薄氷ッ!」
「黙れ! この……馬鹿!」
踏青のほうを見もせずに怒鳴る。
視線はロウの剣の先。
滴り落ちる血はすぐに雨に流されていく。
あと一歩踏み込めば、きっと心の臓を貫かれる。
じり、とロウが歩を進める。
それに合わせて下がる。体勢を崩さないように。
「薄氷……!」
「何しにきた」
「……いいじゃ、ないですか。兄上……」
かき消されそうなほどの声音で呟くと、ロウが勢い良く踏み込んできた。
「観客がいたほうが緊張感があるでしょう!」
叫び。
笑っている。
本当に?
とっさに手に持った短剣の柄でロウの剣を弾く。
けれど返す刀で振り下ろされ、先ほどの傷をまた切られた。
先程よりも鮮やかに、ロウを見据える。
虚ろな目で笑っている弟は、もはや昔の彼には見えなかった。
「……許せ」
きっと雨にかき消されたであろう呟きをその場に吐き捨て、地を蹴る。
直進するこちらに対して、ロウは剣を水平に突き出した。
眉間を狙った、突き。
紙一重で交わし、剣を弾き飛ばす。
回転するように飛んだそれは、踏青の足元に突き立った。
「……兄上」
「すまんな……」
囁く。
聞こえはしないと知りながら。
抱きしめるように腕を広げたロウにぶつかるように、剣を胸につきたてる。
「ごめんなさい、兄上……」
血の臭いの濃い声で、ふわりと笑う。
それは昔のままの顔で。
崩れ落ちる身体を思わず抱きとめる。
彼の体の重さに、膝を突いて。
「薄氷……ッ! 何で……」
踏青が足元の剣をそのままに、こちらに走り寄ってくる。
「……」
ぼんやりとそちらを見て、踏青の後ろに人影があることに気づく。
鮮やかな青緑の髪は。
「……ルシェイド……?」
「エル……」
肩で息をしながら、呆然とこちらを見ている。
「……遅かったな」
ぼそりと言う。
ふたりとも近寄りがたいかのようにその場に立ち止まっている。
ふと、目を閉じたロウの顔に目をやる。
「馬鹿なやつだ」
囁くように言って俯く。
目がかすんでいた。
それが雨の所為なのか、失いすぎた血の所為なのか判断できなかったが、ただ弟の顔が、目に焼きついていた。
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管理者:西(逆凪)、または沖縞
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