小説用倉庫。
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「おや、遅かったね」
家に入ると冬杣がお茶を飲んでいた。
他にも3人。
「……冬杣、それ、私の茶じゃないのか……?」
何とか脱力感を阻止しながらたずねる。
「そうだよ。帰ってこないからね。勝手に拝借しておいた」
さらりと言ってのける。
あぁやはり彼女には適いそうも無い。
嘆息しつつ、そんなことを思う。
「あ、おまえ、今度は何を持ってきたんだ!?」
踏青が目ざとくこちらの右手に持っているものを見つけて叫ぶ。
ニヤリと笑うと、踏青に向かって袋を振る。
「今度の毒の原材料」
「わーッ!! やめてくれよッ! 新しい毒つくんな-!!」
慌てて立ち上がってこちらに手を伸ばす彼をひょいと避けて、一番奥の空いている椅子に座る。
「……で、諦めてくれないか?」
横で騒ぐ踏青を放って、ルシェイドに話し掛ける。
「……でも、彼は肉親だろう」
「嫌われているがね」
溜息をついて背もたれに深く背を預ける。
高西風はロウの依頼で殺しにきた。
ルシェイドはロウの依頼で、彼に会えと言う。
この場合どちらを信用すべきか。
「……高西風、お前依頼受けたのいつだっけ?」
「この間だよ。えっと、1週間前くらい」
「ルシェイドは?」
「3日くらい」
「どう思う?」
全員の顔を順番に見る。
何考えてるのかわからないのは冬杣。
話しについていけず、さっきの焦りもどこかへやっているのは踏青。
高西風は首を傾げたままで。
ルシェイドは俯いて考え込んでいるようだ。
家に入ると冬杣がお茶を飲んでいた。
他にも3人。
「……冬杣、それ、私の茶じゃないのか……?」
何とか脱力感を阻止しながらたずねる。
「そうだよ。帰ってこないからね。勝手に拝借しておいた」
さらりと言ってのける。
あぁやはり彼女には適いそうも無い。
嘆息しつつ、そんなことを思う。
「あ、おまえ、今度は何を持ってきたんだ!?」
踏青が目ざとくこちらの右手に持っているものを見つけて叫ぶ。
ニヤリと笑うと、踏青に向かって袋を振る。
「今度の毒の原材料」
「わーッ!! やめてくれよッ! 新しい毒つくんな-!!」
慌てて立ち上がってこちらに手を伸ばす彼をひょいと避けて、一番奥の空いている椅子に座る。
「……で、諦めてくれないか?」
横で騒ぐ踏青を放って、ルシェイドに話し掛ける。
「……でも、彼は肉親だろう」
「嫌われているがね」
溜息をついて背もたれに深く背を預ける。
高西風はロウの依頼で殺しにきた。
ルシェイドはロウの依頼で、彼に会えと言う。
この場合どちらを信用すべきか。
「……高西風、お前依頼受けたのいつだっけ?」
「この間だよ。えっと、1週間前くらい」
「ルシェイドは?」
「3日くらい」
「どう思う?」
全員の顔を順番に見る。
何考えてるのかわからないのは冬杣。
話しについていけず、さっきの焦りもどこかへやっているのは踏青。
高西風は首を傾げたままで。
ルシェイドは俯いて考え込んでいるようだ。
一通り見回してから、口を開く。
「おかしい、と思わないか? こんな短期間で、別の依頼内容だぞ」
「別?」
聞き返すルシェイドに、高西風が答える。
「ぼくに依頼ってことは殺しってことだもの。君の依頼と、違うでしょ?」
ルシェイドは困った顔をしてこちらを見た。
「私が拒む理由、大体わかるか?」
「……あんまり、わかりたくないけど」
ためらうように言葉を濁して、続ける。
「君に会ったら、殺すつもりかな」
「つもり、じゃなくてそうだろうな」
淡々と答えた。
それに食って掛かったのは踏青。
「ちょっと待てよ! それは決着ついたんじゃないのかよ!」
「ついてないからこうして話してんじゃないか」
「だって高西風依頼やめたって……」
「でもルシェイドは止めると言っていない」
さらりと言う。
その言葉に踏青はすがるようにルシェイドに視線を向けた。
「そのとおりだよ。できれば彼を連れて行きたい。……最後の肉親に、会わせてやりたい」
「最後?」
怪訝そうに聞くと、ルシェイドは頷いた。
「そう、もうノーリィ家はロウと、君しか残っていない」
がたんと、思わず椅子を蹴倒して立ち上がっていた。
視線が一瞬集まる。
「……なんだって……? 他の皆は、どうしたんだ……?」
ルシェイドは目を閉じて首を振った。
横に。
唇をかみ締めて、椅子に座りなおす。
「なんてこった……!」
「どういうこと?」
高西風が口を挟む。
「……あそこの家には、ロウと、彼に従う人たちしかいない」
呟いて、ルシェイドを見る。
「そういう、ことだろう?」
「……そうだ」
「それでも、まだ私をあそこに連れて行きたいのか? あんな奴のところに?」
半ば自嘲気味に言うと、ためらう様子が見て取れた。
「……えぇと……さっぱりわかんないんだけど……」
片手を上げておそるおそる踏青が口を開く。
「あぁ、お前馬鹿だもんな」
「何だと!」
「馬鹿を馬鹿といって何が悪い」
怒る踏青を鼻であしらう。
口元に手を当て、何か悩んでいたルシェイドは、ひとつ溜息をついた。
「……仕方ない、ぼくは一応報告に戻るとするよ」
「そうか」
お茶の残りを飲み干して、立ち上がる。
「どうなるか……何ともいえないけど」
「まぁ何とかなるさ」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、ルシェイドの姿は薄れて消えた。
「何とも行動の早いやつだな」
感心したように冬杣が呟く。
「おかしい、と思わないか? こんな短期間で、別の依頼内容だぞ」
「別?」
聞き返すルシェイドに、高西風が答える。
「ぼくに依頼ってことは殺しってことだもの。君の依頼と、違うでしょ?」
ルシェイドは困った顔をしてこちらを見た。
「私が拒む理由、大体わかるか?」
「……あんまり、わかりたくないけど」
ためらうように言葉を濁して、続ける。
「君に会ったら、殺すつもりかな」
「つもり、じゃなくてそうだろうな」
淡々と答えた。
それに食って掛かったのは踏青。
「ちょっと待てよ! それは決着ついたんじゃないのかよ!」
「ついてないからこうして話してんじゃないか」
「だって高西風依頼やめたって……」
「でもルシェイドは止めると言っていない」
さらりと言う。
その言葉に踏青はすがるようにルシェイドに視線を向けた。
「そのとおりだよ。できれば彼を連れて行きたい。……最後の肉親に、会わせてやりたい」
「最後?」
怪訝そうに聞くと、ルシェイドは頷いた。
「そう、もうノーリィ家はロウと、君しか残っていない」
がたんと、思わず椅子を蹴倒して立ち上がっていた。
視線が一瞬集まる。
「……なんだって……? 他の皆は、どうしたんだ……?」
ルシェイドは目を閉じて首を振った。
横に。
唇をかみ締めて、椅子に座りなおす。
「なんてこった……!」
「どういうこと?」
高西風が口を挟む。
「……あそこの家には、ロウと、彼に従う人たちしかいない」
呟いて、ルシェイドを見る。
「そういう、ことだろう?」
「……そうだ」
「それでも、まだ私をあそこに連れて行きたいのか? あんな奴のところに?」
半ば自嘲気味に言うと、ためらう様子が見て取れた。
「……えぇと……さっぱりわかんないんだけど……」
片手を上げておそるおそる踏青が口を開く。
「あぁ、お前馬鹿だもんな」
「何だと!」
「馬鹿を馬鹿といって何が悪い」
怒る踏青を鼻であしらう。
口元に手を当て、何か悩んでいたルシェイドは、ひとつ溜息をついた。
「……仕方ない、ぼくは一応報告に戻るとするよ」
「そうか」
お茶の残りを飲み干して、立ち上がる。
「どうなるか……何ともいえないけど」
「まぁ何とかなるさ」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、ルシェイドの姿は薄れて消えた。
「何とも行動の早いやつだな」
感心したように冬杣が呟く。
それから数日は特に何事もなく過ぎた。
珍しく雨の降った日。
もうそろそろ咲きそうだった花を見に、山の麓まで行く。
希少な花で、雨の日にしか咲かない。
咲きそうでも雨が降らなければ、そのまま枯れるだけの、花だ。
目当ての花を見つけ、花びらを3枚、掴み取る。
丁寧に小さな布に包み、懐にしまった。
ふと顔を上げると、近くに雷が落ちた。
揺れる地面に顔をしかめると、戻るためにきびすを返す。
町に行く途中。
豪雨のためにぼんやりと人影が見える。
「?」
見慣れない姿。
その人影が判別できるようになったところで、ぎくりと足を止めた。
雨に濡れそぼった姿は、昔見たままの。
ふいに彼はこちらを見た。
違和感のある笑顔。
「兄上……!」
「……ロウ……」
苦しげに声を出すが、雨の音に紛れて向こうには届かなかったようだ。
「迎えにきました、兄上。……ぼくと一緒に帰りましょう」
変わらない笑顔。けれど子供のころとは明らかに違う。
歪んだ顔。
張り付いた笑顔。
声だけは代わらずにそのまま。
「……私は、帰らない」
きつく睨みつけるように言うと、ロウは笑っていた口を閉じた。
「では、死んでくれますか?」
「ごめんこうむる」
「どうしてです」
本当にわからないというように首を傾げる。
頬に当たる雨も、滴る水の重さも気にはならないかのように。
「……帰れ」
「兄上も一緒でなければいやです」
頑固に言い張る。
その矛盾に気づかずに。
「お前は……どうして私に死んでほしいんだ?」
ロウはその言葉に一瞬動きを止めた。
空白。
そう言って良いほどの虚無が、顔を覗かせた。
「貴方がいなくなれば、ぼくが領主……に……」
「それが、お前の望みなのか。……本当に」
「……違う……ぼくは、兄上と……」
混乱。
しているのか。
虚ろな目を向けられ、肌があわ立つ。
雨の寒さではないもので。
「何が……何があったんだ……」
『殺してしまいなさい。そうすれば貴方の望みは叶う』
雨の中、消えそうになりながらも響いた声。
艶のある、女の。
「誰だ……!」
女の声を反芻しているのか、ロウは口の中で何かを呟く。
「……死んでください、兄上……。そうすれば、ぼくは救われるんだ」
救われる。
何から?
「……やめろ……」
ロウは腰に佩いていた剣を引き抜く。
シャン、と音を立てて、切っ先が向けられる。
表情のない顔で、踏み切ってくる。
勝つわけにも、負けるわけにもいかない。
どうすれば。
常に持ち歩く護身用の短剣で、ロウの攻撃を捌いていく。
動きがバラバラで統一性がない。
少なくとも、剣の腕はそこそこあったはずなのに。
(ここまで、弱かったのか――……)
ためしに、とばかりに踏み込んでみる。
剣と剣がぶつかり合う。
途端、バランスを崩したロウは地面に膝を突く。
見上げた彼と、見下ろした自分と。
目があった気がした。
殺してくれと。
言われた気がした。
珍しく雨の降った日。
もうそろそろ咲きそうだった花を見に、山の麓まで行く。
希少な花で、雨の日にしか咲かない。
咲きそうでも雨が降らなければ、そのまま枯れるだけの、花だ。
目当ての花を見つけ、花びらを3枚、掴み取る。
丁寧に小さな布に包み、懐にしまった。
ふと顔を上げると、近くに雷が落ちた。
揺れる地面に顔をしかめると、戻るためにきびすを返す。
町に行く途中。
豪雨のためにぼんやりと人影が見える。
「?」
見慣れない姿。
その人影が判別できるようになったところで、ぎくりと足を止めた。
雨に濡れそぼった姿は、昔見たままの。
ふいに彼はこちらを見た。
違和感のある笑顔。
「兄上……!」
「……ロウ……」
苦しげに声を出すが、雨の音に紛れて向こうには届かなかったようだ。
「迎えにきました、兄上。……ぼくと一緒に帰りましょう」
変わらない笑顔。けれど子供のころとは明らかに違う。
歪んだ顔。
張り付いた笑顔。
声だけは代わらずにそのまま。
「……私は、帰らない」
きつく睨みつけるように言うと、ロウは笑っていた口を閉じた。
「では、死んでくれますか?」
「ごめんこうむる」
「どうしてです」
本当にわからないというように首を傾げる。
頬に当たる雨も、滴る水の重さも気にはならないかのように。
「……帰れ」
「兄上も一緒でなければいやです」
頑固に言い張る。
その矛盾に気づかずに。
「お前は……どうして私に死んでほしいんだ?」
ロウはその言葉に一瞬動きを止めた。
空白。
そう言って良いほどの虚無が、顔を覗かせた。
「貴方がいなくなれば、ぼくが領主……に……」
「それが、お前の望みなのか。……本当に」
「……違う……ぼくは、兄上と……」
混乱。
しているのか。
虚ろな目を向けられ、肌があわ立つ。
雨の寒さではないもので。
「何が……何があったんだ……」
『殺してしまいなさい。そうすれば貴方の望みは叶う』
雨の中、消えそうになりながらも響いた声。
艶のある、女の。
「誰だ……!」
女の声を反芻しているのか、ロウは口の中で何かを呟く。
「……死んでください、兄上……。そうすれば、ぼくは救われるんだ」
救われる。
何から?
「……やめろ……」
ロウは腰に佩いていた剣を引き抜く。
シャン、と音を立てて、切っ先が向けられる。
表情のない顔で、踏み切ってくる。
勝つわけにも、負けるわけにもいかない。
どうすれば。
常に持ち歩く護身用の短剣で、ロウの攻撃を捌いていく。
動きがバラバラで統一性がない。
少なくとも、剣の腕はそこそこあったはずなのに。
(ここまで、弱かったのか――……)
ためしに、とばかりに踏み込んでみる。
剣と剣がぶつかり合う。
途端、バランスを崩したロウは地面に膝を突く。
見上げた彼と、見下ろした自分と。
目があった気がした。
殺してくれと。
言われた気がした。
「何やってるんだよッ!!」
突然聞こえた声はいやというほど聞きなれたそれ。
「踏青……」
半ば驚いてそちらに気を取られた隙を、彼は見逃さなかったようだ。
「……ッ……!」
ロウは身を起こすと同時に、剣の切っ先で肩先を抉ってくる。
痛みに顔をしかめ、血の溢れ出す肩を反対の手で抑えた。
「薄氷ッ!」
「黙れ! この……馬鹿!」
踏青のほうを見もせずに怒鳴る。
視線はロウの剣の先。
滴り落ちる血はすぐに雨に流されていく。
あと一歩踏み込めば、きっと心の臓を貫かれる。
じり、とロウが歩を進める。
それに合わせて下がる。体勢を崩さないように。
「薄氷……!」
「何しにきた」
「……いいじゃ、ないですか。兄上……」
かき消されそうなほどの声音で呟くと、ロウが勢い良く踏み込んできた。
「観客がいたほうが緊張感があるでしょう!」
叫び。
笑っている。
本当に?
とっさに手に持った短剣の柄でロウの剣を弾く。
けれど返す刀で振り下ろされ、先ほどの傷をまた切られた。
先程よりも鮮やかに、ロウを見据える。
虚ろな目で笑っている弟は、もはや昔の彼には見えなかった。
「……許せ」
きっと雨にかき消されたであろう呟きをその場に吐き捨て、地を蹴る。
直進するこちらに対して、ロウは剣を水平に突き出した。
眉間を狙った、突き。
紙一重で交わし、剣を弾き飛ばす。
回転するように飛んだそれは、踏青の足元に突き立った。
「……兄上」
「すまんな……」
囁く。
聞こえはしないと知りながら。
抱きしめるように腕を広げたロウにぶつかるように、剣を胸につきたてる。
「ごめんなさい、兄上……」
血の臭いの濃い声で、ふわりと笑う。
それは昔のままの顔で。
崩れ落ちる身体を思わず抱きとめる。
彼の体の重さに、膝を突いて。
「薄氷……ッ! 何で……」
踏青が足元の剣をそのままに、こちらに走り寄ってくる。
「……」
ぼんやりとそちらを見て、踏青の後ろに人影があることに気づく。
鮮やかな青緑の髪は。
「……ルシェイド……?」
「エル……」
肩で息をしながら、呆然とこちらを見ている。
「……遅かったな」
ぼそりと言う。
ふたりとも近寄りがたいかのようにその場に立ち止まっている。
ふと、目を閉じたロウの顔に目をやる。
「馬鹿なやつだ」
囁くように言って俯く。
目がかすんでいた。
それが雨の所為なのか、失いすぎた血の所為なのか判断できなかったが、ただ弟の顔が、目に焼きついていた。
突然聞こえた声はいやというほど聞きなれたそれ。
「踏青……」
半ば驚いてそちらに気を取られた隙を、彼は見逃さなかったようだ。
「……ッ……!」
ロウは身を起こすと同時に、剣の切っ先で肩先を抉ってくる。
痛みに顔をしかめ、血の溢れ出す肩を反対の手で抑えた。
「薄氷ッ!」
「黙れ! この……馬鹿!」
踏青のほうを見もせずに怒鳴る。
視線はロウの剣の先。
滴り落ちる血はすぐに雨に流されていく。
あと一歩踏み込めば、きっと心の臓を貫かれる。
じり、とロウが歩を進める。
それに合わせて下がる。体勢を崩さないように。
「薄氷……!」
「何しにきた」
「……いいじゃ、ないですか。兄上……」
かき消されそうなほどの声音で呟くと、ロウが勢い良く踏み込んできた。
「観客がいたほうが緊張感があるでしょう!」
叫び。
笑っている。
本当に?
とっさに手に持った短剣の柄でロウの剣を弾く。
けれど返す刀で振り下ろされ、先ほどの傷をまた切られた。
先程よりも鮮やかに、ロウを見据える。
虚ろな目で笑っている弟は、もはや昔の彼には見えなかった。
「……許せ」
きっと雨にかき消されたであろう呟きをその場に吐き捨て、地を蹴る。
直進するこちらに対して、ロウは剣を水平に突き出した。
眉間を狙った、突き。
紙一重で交わし、剣を弾き飛ばす。
回転するように飛んだそれは、踏青の足元に突き立った。
「……兄上」
「すまんな……」
囁く。
聞こえはしないと知りながら。
抱きしめるように腕を広げたロウにぶつかるように、剣を胸につきたてる。
「ごめんなさい、兄上……」
血の臭いの濃い声で、ふわりと笑う。
それは昔のままの顔で。
崩れ落ちる身体を思わず抱きとめる。
彼の体の重さに、膝を突いて。
「薄氷……ッ! 何で……」
踏青が足元の剣をそのままに、こちらに走り寄ってくる。
「……」
ぼんやりとそちらを見て、踏青の後ろに人影があることに気づく。
鮮やかな青緑の髪は。
「……ルシェイド……?」
「エル……」
肩で息をしながら、呆然とこちらを見ている。
「……遅かったな」
ぼそりと言う。
ふたりとも近寄りがたいかのようにその場に立ち止まっている。
ふと、目を閉じたロウの顔に目をやる。
「馬鹿なやつだ」
囁くように言って俯く。
目がかすんでいた。
それが雨の所為なのか、失いすぎた血の所為なのか判断できなかったが、ただ弟の顔が、目に焼きついていた。
目を開けばそれは見慣れた自分の部屋で。
起き上がると体の節々が痛んだ。
まるで高熱でも出した時のようだ。
ふ、と息を吐いて窓の外を見ると、雨の名残もまるで見せず、ただ晴天がそこにあった。
すぐ側の机には、布で丁寧に包んでおいた花びらが置いてある。
布は少し赤く染まっていたが、花びらは平気だったようだ。
ベッドから抜け出し、部屋を出るために扉に手をかける。
たいして力を入れないうちに、それは自分の意思とは別に動いた。
「……踏青?」
目の前に立つ見慣れた姿に、思わず眉根を寄せる。
声は驚くほどかすれていたが、聞き取れないほどではない。
「何やってんだ、こんなとこで」
馬鹿みたいに突っ立ってこちらを凝視していた彼は、突然両肩を掴んできた。
「……ッ……!」
焼けるような痛みが走る。
「薄氷……! 目が覚めたんだな!」
「離せッ! この、馬鹿力!」
両肩を掴まれていて腕がつかえないので、膝で思い切り踏青の腹を蹴り上げる。
「痛ぇ!」
踏青は目を白黒させながらも肩から手を離した。
「おや、起きたのかい、薄氷」
声に顔を上げると、冬杣がいた。
その後ろには酒星や高西風、ルシェイドがいる。
「……どうかしたのか?」
疑問に思って聞くと、驚いたように踏青が言った。
「っておまえ、3日も目を覚まさなかったんだぜ?」
「……あのこは山の麓に埋葬しておいたよ」
「そうか……すまなかった」
目を伏せて言うルシェイドに答える。
少し間を置いてから、改めてルシェイドに声をかける。
「ルシェイド……力を貸してくれないか。それと……酒星にも」
「僕はかまわない」
「アタシもいいですよ」
それぞれの顔を見ながら言うと、実にあっさりと承諾された。
「ロウを操っていたやつに心当たりがある」
薄く聞こえていた声。
昔聞いた、思い出したくもなかった女の。
「どうするんだ?」
尋ねた踏青に目をやって、他の皆に顔を向ける。
「私はユーディリス大陸に……自分の領地に、帰る」
起き上がると体の節々が痛んだ。
まるで高熱でも出した時のようだ。
ふ、と息を吐いて窓の外を見ると、雨の名残もまるで見せず、ただ晴天がそこにあった。
すぐ側の机には、布で丁寧に包んでおいた花びらが置いてある。
布は少し赤く染まっていたが、花びらは平気だったようだ。
ベッドから抜け出し、部屋を出るために扉に手をかける。
たいして力を入れないうちに、それは自分の意思とは別に動いた。
「……踏青?」
目の前に立つ見慣れた姿に、思わず眉根を寄せる。
声は驚くほどかすれていたが、聞き取れないほどではない。
「何やってんだ、こんなとこで」
馬鹿みたいに突っ立ってこちらを凝視していた彼は、突然両肩を掴んできた。
「……ッ……!」
焼けるような痛みが走る。
「薄氷……! 目が覚めたんだな!」
「離せッ! この、馬鹿力!」
両肩を掴まれていて腕がつかえないので、膝で思い切り踏青の腹を蹴り上げる。
「痛ぇ!」
踏青は目を白黒させながらも肩から手を離した。
「おや、起きたのかい、薄氷」
声に顔を上げると、冬杣がいた。
その後ろには酒星や高西風、ルシェイドがいる。
「……どうかしたのか?」
疑問に思って聞くと、驚いたように踏青が言った。
「っておまえ、3日も目を覚まさなかったんだぜ?」
「……あのこは山の麓に埋葬しておいたよ」
「そうか……すまなかった」
目を伏せて言うルシェイドに答える。
少し間を置いてから、改めてルシェイドに声をかける。
「ルシェイド……力を貸してくれないか。それと……酒星にも」
「僕はかまわない」
「アタシもいいですよ」
それぞれの顔を見ながら言うと、実にあっさりと承諾された。
「ロウを操っていたやつに心当たりがある」
薄く聞こえていた声。
昔聞いた、思い出したくもなかった女の。
「どうするんだ?」
尋ねた踏青に目をやって、他の皆に顔を向ける。
「私はユーディリス大陸に……自分の領地に、帰る」
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