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2012/04/16 (Mon)
「僕は先見ができるんだ」
 少女の前に現れた青年が出し抜けにそう言った。

「……貴方は?」
 暗闇に覆われた視界には、青年の姿は見えない。
 声に宿る楽しげな色と、深みのある声で青年だと判断できただけだ。
「僕はルシェイド。君は、レゼリナーダだね?」
 確かめるような声に、頷くことで答える。
 自室に誰かが入ってくることなどめったにない。
 盗賊に遭遇してからは、危険だからと、少女の護衛を買って出ている少年が誰も通さないようにしているからだ。
 けれど、あっさりと入り込んだ青年は、声の位置からして手を伸ばせば届きそうな位置にいる。
 少年が見たら血相を変えるだろうな、と考えながら、危険だとは思わなかった。

「――マルヴェーリの、妹」

 続いた言葉に絶句する。
 マルヴェーリは彼女の兄だ。
 誰からの記憶にも残っていなかったのに。
「兄を、覚えてるんですか?」
「ん?」
 怪訝そうにルシェイドが問う。
「……兄を覚えてる人は誰も居ないんです。貴方は――」
「あぁ、そういうことか。覚えてるよ。直接会ったことはないけど」
 あっさりと言って、ルシェイドが額に触れる。
 冷やりとした、冷たい手だ。
「……目を開けてごらん」
 言われるままに、目蓋を震わせる。
 目は、ずっと見えなかった。
 あの時から。
「視えるでしょう?」

 久しぶりに目に飛び込んだ色彩に、何度も瞬きをする。
 そして、目の前には予想した青年が立っていた。
 窓からの月明かりに浮かび上がった姿は噂される夜の魔物のようで、体が一瞬震えた。
 その様子に、ルシェイドが目を細める。
 金の、目を。

「――!」

 がたり、と、思わず椅子から立ち上がる。
 この砂漠の町でも、近隣の国でも見たことがないほど鮮やかなその金の目は、過去に一度だけ見たことがあった。
 彼女の兄を、連れていってしまった青年と同じ色。
「兄を……兄が何処に行ったか、知っているんですか」
「……君の兄はもういない。座りなよ」
 レゼリナーダの頬に手を当て、ルシェイドが囁く。
 その声に押されるように、椅子に腰を落とした。
「いな……い……?」
「そう。僕は彼らと面識はないけれど、何があったか、何が起こるはずだったのか知ってるよ」
「え……」
 ルシェイドの言葉に頭が追いつかない。
「言っただろう? 僕は先見ができるんだよ。……否、この場合は過去視、かな」
 首をかしげてルシェイドが笑う。
 何でもないことのように。
 たとえその目が笑っていなくても。
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