小説用倉庫。
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「歌姫?」
「そう! あんた知らないのかい。一度歌い始めれば人も動物も聴き惚れるっていう、あの歌姫さ。南の戦争も止めたっていう噂もあるんだよ」
「へぇ……知らなかったな」
「あんた南に向かうんだろ? なら、運が良かったら歌が聞けるかもしれないよ」
「……楽しみにするよ」
豪快に笑う商人に苦笑して、その場を後にした。
風に舞う砂に少し咳き込んで、引き下げていた布を鼻まで上げる。
道行く人も皆同じように顔や頭に布を巻いている。
石畳も、建物も、四方を舞う砂で黄色くくすんで見えた。
砂漠の端に位置するこの町にも、砂は容赦なく吹き込んでくる。
もう五年もすれば、ここも砂漠の中の町になるか、寂れて誰も住まない土地になるだろう。
「歌姫、ね……」
ぽつり、と呟く。
砂漠の入り口である、町との境には人影は殆どない。
大抵の者は隊商と共に砂漠を渡るため、一人で立っているのは彼だけだ。
「それが本当なら、殺しに行かないといけないかもしれないな」
ぼんやりと呟いて、砂漠に歩を進める。
向かう先は南の国。
砂漠に飲まれ、滅びるはずだった、名高い神都だ。
「約束は反故になるけど、選択によっては、仕方ないよね」
ふふ、と笑う。
さくさくと砂を踏んで進む姿は、砂嵐に飲まれてすぐに見えなくなった。
頭に布をかぶっていても、頭上から照りつける太陽は容赦なく水分を奪っていく。
「あっつ……」
ため息をつきながらぼやく。
すでに汗はでなくなっている。
「このあたりで水って……集められないな」
周りは酷く乾燥しているため、湿気は限りなく零に近いだろう。
「まぁ、もうすぐ着くか」
視線の先には、目指している町が見えていた。
ふと、風に乗って微かに歌声が聞こえた。
僅かに目を細めると、ため息を付いて足を早めた。
その町も、他の砂漠の町と同じように石造りの町並みで、白い神殿を中心に家が広がっていた。
歌声は、町に入ってからはっきりと聞こえてきていた。
歌に惹かれるように歩を進める。
周りの住人たちは、作業の手を止めて歌の聞こえる方向に顔を向けていた。
それを指針に進んでいくと、広場に出た。
人だかりのできた中心から、歌が溢れるようにきこえている。
伴奏はない。
高く低く、砂に染み渡る水のように、歌が耳に入ってくる。
それを振り払うように頭を振り、足を進めた。
集まった人々の間をすり抜け、歌姫が見える場所に移動する。
流れるような金の髪をした少女が、そこにいた。
両目を閉じ、薄く微笑みながら歌を紡ぐ。
広場に集まった全ての人が、少女の歌に聞き惚れていた。
囁き声一つ聞こえない。
その少女の姿を見て、一人顔を顰める。
できれば違っていて欲しかった。
別人だったなら、まだ良かったのに。
長いような短いような時間の後、歌が終わり頭を下げた少女に、広場の皆が盛大な拍手を送った。
傍らにいた少年が少女の腕を引く。
少女は少しよろけながら少年についていく。
その時に、気づいた。
彼女は目が見えないのだと。
生まれつきではないのは、動作で分かった。
はぁ、とため息を吐く。
「……恨むよ、二代目」
広場の人々は散り散りになり始めていて、彼に注意をはらうものは誰もいなかった。
「そう! あんた知らないのかい。一度歌い始めれば人も動物も聴き惚れるっていう、あの歌姫さ。南の戦争も止めたっていう噂もあるんだよ」
「へぇ……知らなかったな」
「あんた南に向かうんだろ? なら、運が良かったら歌が聞けるかもしれないよ」
「……楽しみにするよ」
豪快に笑う商人に苦笑して、その場を後にした。
風に舞う砂に少し咳き込んで、引き下げていた布を鼻まで上げる。
道行く人も皆同じように顔や頭に布を巻いている。
石畳も、建物も、四方を舞う砂で黄色くくすんで見えた。
砂漠の端に位置するこの町にも、砂は容赦なく吹き込んでくる。
もう五年もすれば、ここも砂漠の中の町になるか、寂れて誰も住まない土地になるだろう。
「歌姫、ね……」
ぽつり、と呟く。
砂漠の入り口である、町との境には人影は殆どない。
大抵の者は隊商と共に砂漠を渡るため、一人で立っているのは彼だけだ。
「それが本当なら、殺しに行かないといけないかもしれないな」
ぼんやりと呟いて、砂漠に歩を進める。
向かう先は南の国。
砂漠に飲まれ、滅びるはずだった、名高い神都だ。
「約束は反故になるけど、選択によっては、仕方ないよね」
ふふ、と笑う。
さくさくと砂を踏んで進む姿は、砂嵐に飲まれてすぐに見えなくなった。
頭に布をかぶっていても、頭上から照りつける太陽は容赦なく水分を奪っていく。
「あっつ……」
ため息をつきながらぼやく。
すでに汗はでなくなっている。
「このあたりで水って……集められないな」
周りは酷く乾燥しているため、湿気は限りなく零に近いだろう。
「まぁ、もうすぐ着くか」
視線の先には、目指している町が見えていた。
ふと、風に乗って微かに歌声が聞こえた。
僅かに目を細めると、ため息を付いて足を早めた。
その町も、他の砂漠の町と同じように石造りの町並みで、白い神殿を中心に家が広がっていた。
歌声は、町に入ってからはっきりと聞こえてきていた。
歌に惹かれるように歩を進める。
周りの住人たちは、作業の手を止めて歌の聞こえる方向に顔を向けていた。
それを指針に進んでいくと、広場に出た。
人だかりのできた中心から、歌が溢れるようにきこえている。
伴奏はない。
高く低く、砂に染み渡る水のように、歌が耳に入ってくる。
それを振り払うように頭を振り、足を進めた。
集まった人々の間をすり抜け、歌姫が見える場所に移動する。
流れるような金の髪をした少女が、そこにいた。
両目を閉じ、薄く微笑みながら歌を紡ぐ。
広場に集まった全ての人が、少女の歌に聞き惚れていた。
囁き声一つ聞こえない。
その少女の姿を見て、一人顔を顰める。
できれば違っていて欲しかった。
別人だったなら、まだ良かったのに。
長いような短いような時間の後、歌が終わり頭を下げた少女に、広場の皆が盛大な拍手を送った。
傍らにいた少年が少女の腕を引く。
少女は少しよろけながら少年についていく。
その時に、気づいた。
彼女は目が見えないのだと。
生まれつきではないのは、動作で分かった。
はぁ、とため息を吐く。
「……恨むよ、二代目」
広場の人々は散り散りになり始めていて、彼に注意をはらうものは誰もいなかった。
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