小説用倉庫。
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「あの時この町は大規模な砂嵐に飲まれるはずだった。君の兄は彼自身と引換に、砂嵐を鎮めて去った。……そのまま終われば、僕はここに来る必要がなかった。意味がわかるかい?」
混乱したまま、食い入るようにルシェイドを見つめる。
ルシェイドは目を細めて言い放った。
「君が余計なことをしなければ、この町は滅びずに済んだのに」
「私……が……?」
「歌姫なんてこの世界に……この町に、存在しないはずだった。吟遊詩人ではない、歌姫。――君に話が来ているだろう。隣国から」
ぎくり、と体を強張らせる。
隣国からの話は、レゼリナーダに対するものだった。
素晴らしい歌声だと。
その声を王がご所望なのだと。
だから、自分たちのために歌え、と。
それも、両隣の国から。
「君はどうするんだい?」
聞かれなくても、答えは出ていなかった。
どちらにも行きたくはない。
けれど。
「君がどちらに行っても、此処に留まっても、結果は変わらない。彼らは君を手に入れるために互いに攻撃を仕掛けるだろう。君が此処に留まれば、この町が最初の標的だ。君の帰る場所を奪うために。君の寄る辺がなくなるように」
歌うようにルシェイドが言う。
残酷な現実を。
「逃れるすべは」
「無いよ」
あっさりとした返答に、視線を落とす。
「君が姿を眩ませば、君を探すためにこの町は蹂躙される。別の町に逃げても追ってくるだろう。君を巡って、殺し合いが起きるんだ」
「どうしたら……良いんですか……! 私はただ、歌を歌っていただけなのに……」
居もしない兄を探しているのだと、気が触れてしまったのだと敬遠されながら、彼女に残されたのはただ歌だけだった。
歌を歌えば、周りの皆は彼女に優しかった。
諍いを起こしていた人も、彼女の歌を聞いてくれた。
歌を歌っていれば、嫌なことも忘れられた。
ただ、それだけだったのに。
ふぅ、とルシェイドがため息をつく。
「……まぁ、こういう事態になるのは僕も予想外だったし、そもそもあの人達の尻拭いなんだけど」
嫌そうに吐き捨てた後、ルシェイドがレゼリナーダを見据える。
強い、射ぬくような視線で。
「君に選択肢をあげよう。どちらかの国について、片方を滅ぼすか、両隣の国を滅ぼすか、この町を含めて全て滅びるか、……それとも、歌を捨てるか」
「歌を……捨てる?」
「そう。君の、その歌声は僕らが魔法と呼ぶものを含んでいる。だから、強い影響力がある。その歌声を捨てるなら、人死が最小限になるよう、僕も努力するよ」
苦笑と共に言われ、躊躇う。
「人が、死ぬんですか」
「うん。それは仕方ない」
ルシェイドが頷く。
「でも、君の目はもう見えなくなることはないから、できることは増えるはずだよ」
「目を……どうして」
「君があの時……マルヴェーリが去る時に居合わせたのは予定外だった。だから、力の余波をまともに受けてしまったんだよ。でなければ僕も治せないからね」
少女は顔を覆って俯く。
いつもの暗闇が戻ってくる。
けれど。
「……わかりました。歌えなくなるのは、辛いけれど……」
「歌えなくなるわけじゃないよ」
搾り出すような声で言った言葉を、ルシェイドが否定する。
はっとして顔を上げると、微笑みながらルシェイドが言った。
「君の歌は君のものだ。僕はただ、その歌から魔法を――……周りに対する影響力の元を、消すだけだからね」
レゼリナーダは椅子に座ったまま、深く頭を下げる。
膝の上で握りしめた手に、涙が一滴落ちるのが見えた。
「……こんなものかな」
少女から魔力を落とし、隣国の強硬派を始末して、ルシェイドはため息を付いた。
少女の歌は、魔力を抜きにしても素晴らしい歌声だ。
けれど、争いのもとになるほどではない。
これで、この砂漠の町は滅びることはないだろう。
少なくとも、彼女が生きている間は。
「アルファルも大雑把だったからなぁ。もうちょっと考えてくれれば良いのに」
今はいない彼に毒づく。
「何のフォローもしてないあたり、めんどくさかったからとか言いそう」
ふ、と笑う。
姿は知っていても、直接会ったことはない。
お互いが、同じ時間には存在できないから。
振り切るように顔を上げると、太陽の眩しさに目を細める。
「さて、久しぶりにシェセルディのところにでも戻ろうかな」
言って、目を閉じる。
砂の混じった風に押されるように、ルシェイドの姿はその場から消え失せた。
混乱したまま、食い入るようにルシェイドを見つめる。
ルシェイドは目を細めて言い放った。
「君が余計なことをしなければ、この町は滅びずに済んだのに」
「私……が……?」
「歌姫なんてこの世界に……この町に、存在しないはずだった。吟遊詩人ではない、歌姫。――君に話が来ているだろう。隣国から」
ぎくり、と体を強張らせる。
隣国からの話は、レゼリナーダに対するものだった。
素晴らしい歌声だと。
その声を王がご所望なのだと。
だから、自分たちのために歌え、と。
それも、両隣の国から。
「君はどうするんだい?」
聞かれなくても、答えは出ていなかった。
どちらにも行きたくはない。
けれど。
「君がどちらに行っても、此処に留まっても、結果は変わらない。彼らは君を手に入れるために互いに攻撃を仕掛けるだろう。君が此処に留まれば、この町が最初の標的だ。君の帰る場所を奪うために。君の寄る辺がなくなるように」
歌うようにルシェイドが言う。
残酷な現実を。
「逃れるすべは」
「無いよ」
あっさりとした返答に、視線を落とす。
「君が姿を眩ませば、君を探すためにこの町は蹂躙される。別の町に逃げても追ってくるだろう。君を巡って、殺し合いが起きるんだ」
「どうしたら……良いんですか……! 私はただ、歌を歌っていただけなのに……」
居もしない兄を探しているのだと、気が触れてしまったのだと敬遠されながら、彼女に残されたのはただ歌だけだった。
歌を歌えば、周りの皆は彼女に優しかった。
諍いを起こしていた人も、彼女の歌を聞いてくれた。
歌を歌っていれば、嫌なことも忘れられた。
ただ、それだけだったのに。
ふぅ、とルシェイドがため息をつく。
「……まぁ、こういう事態になるのは僕も予想外だったし、そもそもあの人達の尻拭いなんだけど」
嫌そうに吐き捨てた後、ルシェイドがレゼリナーダを見据える。
強い、射ぬくような視線で。
「君に選択肢をあげよう。どちらかの国について、片方を滅ぼすか、両隣の国を滅ぼすか、この町を含めて全て滅びるか、……それとも、歌を捨てるか」
「歌を……捨てる?」
「そう。君の、その歌声は僕らが魔法と呼ぶものを含んでいる。だから、強い影響力がある。その歌声を捨てるなら、人死が最小限になるよう、僕も努力するよ」
苦笑と共に言われ、躊躇う。
「人が、死ぬんですか」
「うん。それは仕方ない」
ルシェイドが頷く。
「でも、君の目はもう見えなくなることはないから、できることは増えるはずだよ」
「目を……どうして」
「君があの時……マルヴェーリが去る時に居合わせたのは予定外だった。だから、力の余波をまともに受けてしまったんだよ。でなければ僕も治せないからね」
少女は顔を覆って俯く。
いつもの暗闇が戻ってくる。
けれど。
「……わかりました。歌えなくなるのは、辛いけれど……」
「歌えなくなるわけじゃないよ」
搾り出すような声で言った言葉を、ルシェイドが否定する。
はっとして顔を上げると、微笑みながらルシェイドが言った。
「君の歌は君のものだ。僕はただ、その歌から魔法を――……周りに対する影響力の元を、消すだけだからね」
レゼリナーダは椅子に座ったまま、深く頭を下げる。
膝の上で握りしめた手に、涙が一滴落ちるのが見えた。
「……こんなものかな」
少女から魔力を落とし、隣国の強硬派を始末して、ルシェイドはため息を付いた。
少女の歌は、魔力を抜きにしても素晴らしい歌声だ。
けれど、争いのもとになるほどではない。
これで、この砂漠の町は滅びることはないだろう。
少なくとも、彼女が生きている間は。
「アルファルも大雑把だったからなぁ。もうちょっと考えてくれれば良いのに」
今はいない彼に毒づく。
「何のフォローもしてないあたり、めんどくさかったからとか言いそう」
ふ、と笑う。
姿は知っていても、直接会ったことはない。
お互いが、同じ時間には存在できないから。
振り切るように顔を上げると、太陽の眩しさに目を細める。
「さて、久しぶりにシェセルディのところにでも戻ろうかな」
言って、目を閉じる。
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