小説用倉庫。
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その日、俺はいつものように巨木の根元にいた。
寝起きの重い瞼を開けてぼんやりと周囲を見回しても、目に入るのは鬱蒼と繁った森ばかりだ。
俺が今いる巨木は、この辺り一帯の森でも群を抜いて大きい。
上に登れば見晴らしは良いし、根元には一人分くらいの隠れ場所もある。
何より少し離れたところで、よほどの方向音痴でもない限りは迷うことなく戻れるだろう。
だからといって俺は方向音痴なわけじゃねぇんだが。
森はいつものように薄暗く、静まり返っていた。
まぁこの世界は常にうっすらと曇ってるから、薄暗くない森とかは俺は知らない。
太陽も月も常に隠れていて、見たことはない。
ただ知識としてそこにあることを知っているだけだ。
光が欲しいと思うこともないし、無くても支障はない。
この世界はそれで、問題なく機能しているのだから。
ふと気づくと、奥の方が何やら騒がしかった。
興味を引かれたので行ってみる。
近づくにつれて、鉄錆の匂いが鼻をついた。
思わず眉をひそめる。
明らかな血の匂いは、そこで戦闘が起きている事を示していた。
この辺りには、知性の低い獣じみた奴や、南の方から見たことの無い生き物がくる所為で、腕に自信があるか何も知らない馬鹿以外は殆ど近寄ってこない。
だからどんな奴が来たのか興味を持った。
何せ此処には話の出来る奴がいないからな。
少し開けた場所に出ると、血臭が酷くなった。
獣と、人。
その、黒い獣の中心に人がいた。
獣の方は見たことがある。
ずいぶん前に南からきた奴らだ。
鋭い牙や爪を持っているが、敵意を示したり縄張りに入ったりしなければ害はない。
相手の方は見たことが無かった。
どこか儚い印象がある気がした。
袖は破れ、細い手足についた傷からは血が溢れていた。
そいつは少し困った顔をして、手に持った杖で獣を退けていた。
……杖?
これは珍しい。
杖といえば魔法の媒介だが、俺たちはそういうものに頼らない。
魔法は自らの内にあるもので、それを引き出したりするのは呼吸と等しい程に簡単な事だからだ。
髪は白に近い薄い青。
これは別に珍しくないし、むしろ俺たち魔族にとっては普通の色だ。
あんまり濃い色の髪の奴はいないから。
ふと自分の髪が目に入る。
基本的に銀だが、何故か毛先だけが異様に鮮やかな緑をしている。
薄い色が基本の魔族にしては、至極珍しいといえる。
だから何だって訳でもないが。
考え事をしている間にまたひとつ、そいつは傷を負った。
俺は軽く息を溜めると、吐き出す息を圧力に変えて獣に放った。
まともに食らった何匹かが弾かれたように吹き飛ぶ。
「大人しくしてろよ、獣ども。怪我したくないならな」
言いながら近づく。
獣の半数が俺に対して唸り声を上げた。
怪我をさせるつもりはないが、大人しくさせるには仕方ないだろう。
だが獣はそれ以上立ち向かってこようとしなかった。
一匹が後退を始めると、残りがそれに倣い、森の中へ消えていく。
最後の一匹まで完全に姿が見えなくなって、俺は溜め息をついた。
文句のひとつも言おうと振り返る。
そいつを目にして、俺は僅かに目を見開いた。
寝起きの重い瞼を開けてぼんやりと周囲を見回しても、目に入るのは鬱蒼と繁った森ばかりだ。
俺が今いる巨木は、この辺り一帯の森でも群を抜いて大きい。
上に登れば見晴らしは良いし、根元には一人分くらいの隠れ場所もある。
何より少し離れたところで、よほどの方向音痴でもない限りは迷うことなく戻れるだろう。
だからといって俺は方向音痴なわけじゃねぇんだが。
森はいつものように薄暗く、静まり返っていた。
まぁこの世界は常にうっすらと曇ってるから、薄暗くない森とかは俺は知らない。
太陽も月も常に隠れていて、見たことはない。
ただ知識としてそこにあることを知っているだけだ。
光が欲しいと思うこともないし、無くても支障はない。
この世界はそれで、問題なく機能しているのだから。
ふと気づくと、奥の方が何やら騒がしかった。
興味を引かれたので行ってみる。
近づくにつれて、鉄錆の匂いが鼻をついた。
思わず眉をひそめる。
明らかな血の匂いは、そこで戦闘が起きている事を示していた。
この辺りには、知性の低い獣じみた奴や、南の方から見たことの無い生き物がくる所為で、腕に自信があるか何も知らない馬鹿以外は殆ど近寄ってこない。
だからどんな奴が来たのか興味を持った。
何せ此処には話の出来る奴がいないからな。
少し開けた場所に出ると、血臭が酷くなった。
獣と、人。
その、黒い獣の中心に人がいた。
獣の方は見たことがある。
ずいぶん前に南からきた奴らだ。
鋭い牙や爪を持っているが、敵意を示したり縄張りに入ったりしなければ害はない。
相手の方は見たことが無かった。
どこか儚い印象がある気がした。
袖は破れ、細い手足についた傷からは血が溢れていた。
そいつは少し困った顔をして、手に持った杖で獣を退けていた。
……杖?
これは珍しい。
杖といえば魔法の媒介だが、俺たちはそういうものに頼らない。
魔法は自らの内にあるもので、それを引き出したりするのは呼吸と等しい程に簡単な事だからだ。
髪は白に近い薄い青。
これは別に珍しくないし、むしろ俺たち魔族にとっては普通の色だ。
あんまり濃い色の髪の奴はいないから。
ふと自分の髪が目に入る。
基本的に銀だが、何故か毛先だけが異様に鮮やかな緑をしている。
薄い色が基本の魔族にしては、至極珍しいといえる。
だから何だって訳でもないが。
考え事をしている間にまたひとつ、そいつは傷を負った。
俺は軽く息を溜めると、吐き出す息を圧力に変えて獣に放った。
まともに食らった何匹かが弾かれたように吹き飛ぶ。
「大人しくしてろよ、獣ども。怪我したくないならな」
言いながら近づく。
獣の半数が俺に対して唸り声を上げた。
怪我をさせるつもりはないが、大人しくさせるには仕方ないだろう。
だが獣はそれ以上立ち向かってこようとしなかった。
一匹が後退を始めると、残りがそれに倣い、森の中へ消えていく。
最後の一匹まで完全に姿が見えなくなって、俺は溜め息をついた。
文句のひとつも言おうと振り返る。
そいつを目にして、俺は僅かに目を見開いた。
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