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2012/02/05 (Sun)
 少し警戒するように俺を見ているその顔は、恐ろしく整った顔をしていた。
 それ故に氷の結晶のような、冷ややかさが漂っている。
 思わず見とれていた事に気づくと、それを誤魔化すように不機嫌そうな顔を作った。
「こんな所で何やってんだ、アンタ。自殺志願なら他でやれよ」
 そいつはきょとんと首をかしげて言った。
「散歩をしていたのだけれど、此処は何処だろう?」

 声を聞いて驚いた。
 女だと思ってた。
 この顔で男ってか。
 しかも迷子。

「此処は南の森だ。まともに戦えねぇような奴が来るとこじゃねぇぞ」
 不機嫌そうに言うと、不思議そうに俺を見てきやがった。
「……君は、なぜ此処に?」
「此処に住んでる」
「どうして」
「別に、他に行くところもねぇからな」

 嘘だ。
 気が付いたらこの森にいた。
 捨てられたのか、自分で来たのかも分からないが、他の奴がいるところに住まないのは、この髪の所為だった。
 何処へ行っても奇異の目で見られ、まともに扱ってもらえないなら、いっそ誰もいないとこの方が楽だと思って此処に住み着いている。
 慣れればこの暮らしも楽なんだがな。

 そいつは少し俯いていたかと思うと、顔を上げ、にこりと微笑んだ。
 氷の結晶のようだった印象が氷解していく。
 夜闇に灯る明かりのような笑顔で、彼は言った。
「行くところが無いなら、私の所に来ないか?」
 そんな事を言われるとは思っていなかったから、面食らったのは確かだ。

「……アンタの、所?」
「そう。私の名前はリーヴァセウス。君のような力のある人に来てもらえると私も助かるのだけれど」
 どうかな? と首を傾げてくるが、俺としてはそれどころじゃなかった。

 リーヴァセウスといえば魔族の頂点に立ち魔界を統べる王の名だ。
 普通おいそれと会えるものじゃない。
 それに杖を持っている事が解せない。
 王なら杖なんていらないはずだ。
 魔族の誰よりも強い力を持っているんだから。
 だが王の名を騙る事などできるはずもない。

 半信半疑で、俺はつい聞いていた。
「……本当に?」
 彼は苦笑して、それから手に持った杖を上げて見せた。
「あぁ、これ? これは借り物なんだ。魔力を使わない魔法を習ったんだけど、これが無いと制御が難しくてね」

 魔力を使わない、魔法?
 そんなものがあるなんて聞いたことは無い。
 怪訝そうに、ただ黙っているとそいつは残念そうな顔をして言った。
「やっぱり駄目……かな?」
「いや」
 俺は反射的にそう応えていた。

 何故か、と問われても理由は無い。
 ただ、放っておいてはいけない気がした。
 単調な森の生活に飽きていたってのもあるかもしれない。

 なんにせよ、俺はこの時、彼についていくことに決めたのだ。
 差し出された手を取ると、彼は笑って問い掛けた。
「君の名前は?」
「……ライナート」
「そう、じゃあ行こうか。ライナート」
 そうして俺は、久しぶりに、そして永遠にその森を後にした。
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