小説用倉庫。
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少し警戒するように俺を見ているその顔は、恐ろしく整った顔をしていた。
それ故に氷の結晶のような、冷ややかさが漂っている。
思わず見とれていた事に気づくと、それを誤魔化すように不機嫌そうな顔を作った。
「こんな所で何やってんだ、アンタ。自殺志願なら他でやれよ」
そいつはきょとんと首をかしげて言った。
「散歩をしていたのだけれど、此処は何処だろう?」
声を聞いて驚いた。
女だと思ってた。
この顔で男ってか。
しかも迷子。
「此処は南の森だ。まともに戦えねぇような奴が来るとこじゃねぇぞ」
不機嫌そうに言うと、不思議そうに俺を見てきやがった。
「……君は、なぜ此処に?」
「此処に住んでる」
「どうして」
「別に、他に行くところもねぇからな」
嘘だ。
気が付いたらこの森にいた。
捨てられたのか、自分で来たのかも分からないが、他の奴がいるところに住まないのは、この髪の所為だった。
何処へ行っても奇異の目で見られ、まともに扱ってもらえないなら、いっそ誰もいないとこの方が楽だと思って此処に住み着いている。
慣れればこの暮らしも楽なんだがな。
そいつは少し俯いていたかと思うと、顔を上げ、にこりと微笑んだ。
氷の結晶のようだった印象が氷解していく。
夜闇に灯る明かりのような笑顔で、彼は言った。
「行くところが無いなら、私の所に来ないか?」
そんな事を言われるとは思っていなかったから、面食らったのは確かだ。
「……アンタの、所?」
「そう。私の名前はリーヴァセウス。君のような力のある人に来てもらえると私も助かるのだけれど」
どうかな? と首を傾げてくるが、俺としてはそれどころじゃなかった。
リーヴァセウスといえば魔族の頂点に立ち魔界を統べる王の名だ。
普通おいそれと会えるものじゃない。
それに杖を持っている事が解せない。
王なら杖なんていらないはずだ。
魔族の誰よりも強い力を持っているんだから。
だが王の名を騙る事などできるはずもない。
半信半疑で、俺はつい聞いていた。
「……本当に?」
彼は苦笑して、それから手に持った杖を上げて見せた。
「あぁ、これ? これは借り物なんだ。魔力を使わない魔法を習ったんだけど、これが無いと制御が難しくてね」
魔力を使わない、魔法?
そんなものがあるなんて聞いたことは無い。
怪訝そうに、ただ黙っているとそいつは残念そうな顔をして言った。
「やっぱり駄目……かな?」
「いや」
俺は反射的にそう応えていた。
何故か、と問われても理由は無い。
ただ、放っておいてはいけない気がした。
単調な森の生活に飽きていたってのもあるかもしれない。
なんにせよ、俺はこの時、彼についていくことに決めたのだ。
差し出された手を取ると、彼は笑って問い掛けた。
「君の名前は?」
「……ライナート」
「そう、じゃあ行こうか。ライナート」
そうして俺は、久しぶりに、そして永遠にその森を後にした。
それ故に氷の結晶のような、冷ややかさが漂っている。
思わず見とれていた事に気づくと、それを誤魔化すように不機嫌そうな顔を作った。
「こんな所で何やってんだ、アンタ。自殺志願なら他でやれよ」
そいつはきょとんと首をかしげて言った。
「散歩をしていたのだけれど、此処は何処だろう?」
声を聞いて驚いた。
女だと思ってた。
この顔で男ってか。
しかも迷子。
「此処は南の森だ。まともに戦えねぇような奴が来るとこじゃねぇぞ」
不機嫌そうに言うと、不思議そうに俺を見てきやがった。
「……君は、なぜ此処に?」
「此処に住んでる」
「どうして」
「別に、他に行くところもねぇからな」
嘘だ。
気が付いたらこの森にいた。
捨てられたのか、自分で来たのかも分からないが、他の奴がいるところに住まないのは、この髪の所為だった。
何処へ行っても奇異の目で見られ、まともに扱ってもらえないなら、いっそ誰もいないとこの方が楽だと思って此処に住み着いている。
慣れればこの暮らしも楽なんだがな。
そいつは少し俯いていたかと思うと、顔を上げ、にこりと微笑んだ。
氷の結晶のようだった印象が氷解していく。
夜闇に灯る明かりのような笑顔で、彼は言った。
「行くところが無いなら、私の所に来ないか?」
そんな事を言われるとは思っていなかったから、面食らったのは確かだ。
「……アンタの、所?」
「そう。私の名前はリーヴァセウス。君のような力のある人に来てもらえると私も助かるのだけれど」
どうかな? と首を傾げてくるが、俺としてはそれどころじゃなかった。
リーヴァセウスといえば魔族の頂点に立ち魔界を統べる王の名だ。
普通おいそれと会えるものじゃない。
それに杖を持っている事が解せない。
王なら杖なんていらないはずだ。
魔族の誰よりも強い力を持っているんだから。
だが王の名を騙る事などできるはずもない。
半信半疑で、俺はつい聞いていた。
「……本当に?」
彼は苦笑して、それから手に持った杖を上げて見せた。
「あぁ、これ? これは借り物なんだ。魔力を使わない魔法を習ったんだけど、これが無いと制御が難しくてね」
魔力を使わない、魔法?
そんなものがあるなんて聞いたことは無い。
怪訝そうに、ただ黙っているとそいつは残念そうな顔をして言った。
「やっぱり駄目……かな?」
「いや」
俺は反射的にそう応えていた。
何故か、と問われても理由は無い。
ただ、放っておいてはいけない気がした。
単調な森の生活に飽きていたってのもあるかもしれない。
なんにせよ、俺はこの時、彼についていくことに決めたのだ。
差し出された手を取ると、彼は笑って問い掛けた。
「君の名前は?」
「……ライナート」
「そう、じゃあ行こうか。ライナート」
そうして俺は、久しぶりに、そして永遠にその森を後にした。
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管理者:西(逆凪)、または沖縞
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