小説用倉庫。
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「……シェンディルの所に行こう」
ふと、口をついて出た言葉がそれだった。
具体的にどうしようと考えていたわけではない。
ただ、不意に思いついただけだ。
何を。
話したいと思ったわけでもない。
レインはルベアの言葉に嬉しそうに手を叩いた。
「そうだね、そうしよう! オレまだちゃんと挨拶してないし」
「うん。俺も良いと思うよ」
同意してオルカーンが喉を鳴らす。
「行き先が決まったのか」
声に振り返ると、戸口のところにディリクが立っていた。
相変わらず足音も気配も無い。
彼は近くまで寄ると、手を伸ばした。
察したルベアが盆を取ろうと手を伸ばそうとし、けれど右腕はまったく動かなかった。
「……」
ディリクが無言で盆を取る。
視線を上げられず、ルベアは右腕へと視線を落とす。
不自然に、沈黙が落ちた。
あの時、「喰われた」のは右腕の中身だ。
神経や肉ではない、精神的な何か。
意識や魂、と言い換えても良いかもしれない。
その為外傷はまったく無いにも拘らず、腕はルベアの意思ではぴくりとも動かせなくなっていた。
今もだらりと身体の脇に垂れたままだ。
悲しい、という感情は沸かない。
むしろ、重くて邪魔だな、と思う。
一瞬切り捨てていこうかと本気で思ったが、不安そうな視線に気づいて顔を上げる。
「何だ」
「や、あの、えっと……大丈夫かなって」
しどろもどろに言うレインに、怪訝そうな顔を返す。
「腕。不便だろ?」
オルカーンに鼻先で示され、あぁ、と頷く。
「でも、仕方ない。今更言ったところでどうにもならないだろう」
「俺、が、ちゃんと全部戻せてたら……」
泣きそうな声で、泣きそうな顔でレインが縋るように言う。
「違う。俺が、良いと言ったんだ。あんなのに呑まれて、腕一本で済んで僥倖だと言うべきだろう」
厳しい口調で言い、其処で少し言いよどむ。
「……だから、……助けてくれて、有難う」
小声で呟き、視線を外す。
レインとオルカーンはきょとんとしてから互いに顔を見合わせ、それから微笑んだ。
いつの間にかディリクは店へと戻っていて、レインは誰に憚る事無くルベアとオルカーンに抱きついた。
「おい……」
驚いて引き剥がそうとするが、片手ではうまくいかない。
「……無事で、良かった」
囁く声が聞こえて、ルベアは引き離そうとするのを止めた。
苦しそうにしていたオルカーンと視線を合わせ、互いにため息をついて空を仰いだ。
四角く切り取られた空は青く、手の届かないほど高いのだと改めて感じられるようだった。
ふと、口をついて出た言葉がそれだった。
具体的にどうしようと考えていたわけではない。
ただ、不意に思いついただけだ。
何を。
話したいと思ったわけでもない。
レインはルベアの言葉に嬉しそうに手を叩いた。
「そうだね、そうしよう! オレまだちゃんと挨拶してないし」
「うん。俺も良いと思うよ」
同意してオルカーンが喉を鳴らす。
「行き先が決まったのか」
声に振り返ると、戸口のところにディリクが立っていた。
相変わらず足音も気配も無い。
彼は近くまで寄ると、手を伸ばした。
察したルベアが盆を取ろうと手を伸ばそうとし、けれど右腕はまったく動かなかった。
「……」
ディリクが無言で盆を取る。
視線を上げられず、ルベアは右腕へと視線を落とす。
不自然に、沈黙が落ちた。
あの時、「喰われた」のは右腕の中身だ。
神経や肉ではない、精神的な何か。
意識や魂、と言い換えても良いかもしれない。
その為外傷はまったく無いにも拘らず、腕はルベアの意思ではぴくりとも動かせなくなっていた。
今もだらりと身体の脇に垂れたままだ。
悲しい、という感情は沸かない。
むしろ、重くて邪魔だな、と思う。
一瞬切り捨てていこうかと本気で思ったが、不安そうな視線に気づいて顔を上げる。
「何だ」
「や、あの、えっと……大丈夫かなって」
しどろもどろに言うレインに、怪訝そうな顔を返す。
「腕。不便だろ?」
オルカーンに鼻先で示され、あぁ、と頷く。
「でも、仕方ない。今更言ったところでどうにもならないだろう」
「俺、が、ちゃんと全部戻せてたら……」
泣きそうな声で、泣きそうな顔でレインが縋るように言う。
「違う。俺が、良いと言ったんだ。あんなのに呑まれて、腕一本で済んで僥倖だと言うべきだろう」
厳しい口調で言い、其処で少し言いよどむ。
「……だから、……助けてくれて、有難う」
小声で呟き、視線を外す。
レインとオルカーンはきょとんとしてから互いに顔を見合わせ、それから微笑んだ。
いつの間にかディリクは店へと戻っていて、レインは誰に憚る事無くルベアとオルカーンに抱きついた。
「おい……」
驚いて引き剥がそうとするが、片手ではうまくいかない。
「……無事で、良かった」
囁く声が聞こえて、ルベアは引き離そうとするのを止めた。
苦しそうにしていたオルカーンと視線を合わせ、互いにため息をついて空を仰いだ。
四角く切り取られた空は青く、手の届かないほど高いのだと改めて感じられるようだった。
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