小説用倉庫。
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ぐ、と腕に力を込めて、彼は拘束を振り払った。
「レイン!」
咎めるようにディリクが短く叫ぶ。
「対処法は、無いの?」
視線は床から離れないまま、レインが硬い声で聞いた。
一拍おいてからディリクが答える。
「無い。出現自体が稀で、すぐに異空間に転移するから補足が困難なんだ」
「魔法で倒すとか」
オルカーンが視線を上げて問う。
平静に見えるが、全身が緊張しているのが傍から見ても感じられた。
「……中に引きずり込まれた者を犠牲にする事になる」
苦虫を噛み潰したような顔でディリクが囁く。
レインはぎり、と歯噛みする。
今の自分は、こんなにも無力だ。
どうしたらいいだろう。
どうすれば、彼が助けられるのか。
沈黙は重く横たわり、それを破る術はない。
ちらり、と視界の隅に青銀の髪が写る。
半ば反射的にそちらを見ると、彼がじっとこちらを見ていた。
何か言いたそうな、けれど僅かに眉をひそめて。
どきり、とした。
先程彼は何と言ったか。
力技ではない、繊細なものならオレにできるんじゃないのか。
「ねぇ」
声を掛けてから言葉を失う。
そういえば名前を聞いていなかった。
「ヴィオルウス」
察したのか、彼は短く言った。
「……ヴィオルウス。オレの力は、こいつからルベアを取り戻せるかな」
唐突な問いはけれど予想されていたのか、驚いた気配は殆ど無かった。
ヴィオルウスは一瞬躊躇った後、目を伏せて頷いた。
「それならオレの記憶の戻し方を教えて」
深呼吸をして、言う。
「……オレは、ルベアが死ぬのは嫌だ」
静かに、けれどきっぱりと言い切ったレインをじっと見つめて、ヴィオルウスはため息をついた。
「わかった。……でも、上手くいくかは君次第だからね」
こくり、とレインが頷くと、ディリクが一歩を踏み出した。
「私も手伝おう」
その言葉に、ヴィオルウスが少し安堵したように頷いた。
「少し……荒業になるかもしれないよ」
「大丈夫」
「記憶よりも力を戻すことを優先させるからね」
す、とヴィオルウスがレインの手をとる。
ディリクが反対の手に触れる。
「ゆっくりと呼吸をして……私の力に逆らわないで」
オルカーンがぱたりと尻尾を振りながら、レイン達と床を見つめている。
やることが無いからか、アィルは口出しもせず壁に寄りかかったまま皆を見ていた。
不意にレインは自分の意識に、重い塊が流れ込んできたのに気づいた。
押し流されそうになりながら、受け流そうともがく。
まるで泥の中を泳ぐような感触だ。
きつく目を瞑って耐えていると、ディリクが強く手を握り締めてきた。
途端、楽に立てるようになった。
重い塊はまだあるけれど、泥ではなくさらりとした砂になったかのようだった。
ゆっくりと目を開ける。
その時、自分が目を閉じていたことに気づいた。
床の上に視線を移すと、酷く不自然な歪があるのが見えた。
何も考えられず、ただ本能のままに其処へ意識を向ける。
歪に触れ、力任せに押すと、パキリと乾いた音が響いた。
何も無い空間に、ひびが入っている。
構わずにそのまま押すと、ひびはさらに広がり、僅かな隙間が開いた。
漏れ出るのは黒い闇。
背筋が震えるような本能的な恐怖を振り切って、レインの意識はその中に飛び込んだ。
「オルカーン!」
ディリクが鋭く叫ぶ。
耳をそばだて、オルカーンは身構えて次の言葉を待つ。
「レインの意識が行った。追えるな?」
オルカーンは返事の代わりに身を翻した。
躊躇なく闇の中へと潜っていく。
ヴィオルウスとディリクはレインの手を掴んだまま、その闇をじっと見つめていた。
「レイン!」
咎めるようにディリクが短く叫ぶ。
「対処法は、無いの?」
視線は床から離れないまま、レインが硬い声で聞いた。
一拍おいてからディリクが答える。
「無い。出現自体が稀で、すぐに異空間に転移するから補足が困難なんだ」
「魔法で倒すとか」
オルカーンが視線を上げて問う。
平静に見えるが、全身が緊張しているのが傍から見ても感じられた。
「……中に引きずり込まれた者を犠牲にする事になる」
苦虫を噛み潰したような顔でディリクが囁く。
レインはぎり、と歯噛みする。
今の自分は、こんなにも無力だ。
どうしたらいいだろう。
どうすれば、彼が助けられるのか。
沈黙は重く横たわり、それを破る術はない。
ちらり、と視界の隅に青銀の髪が写る。
半ば反射的にそちらを見ると、彼がじっとこちらを見ていた。
何か言いたそうな、けれど僅かに眉をひそめて。
どきり、とした。
先程彼は何と言ったか。
力技ではない、繊細なものならオレにできるんじゃないのか。
「ねぇ」
声を掛けてから言葉を失う。
そういえば名前を聞いていなかった。
「ヴィオルウス」
察したのか、彼は短く言った。
「……ヴィオルウス。オレの力は、こいつからルベアを取り戻せるかな」
唐突な問いはけれど予想されていたのか、驚いた気配は殆ど無かった。
ヴィオルウスは一瞬躊躇った後、目を伏せて頷いた。
「それならオレの記憶の戻し方を教えて」
深呼吸をして、言う。
「……オレは、ルベアが死ぬのは嫌だ」
静かに、けれどきっぱりと言い切ったレインをじっと見つめて、ヴィオルウスはため息をついた。
「わかった。……でも、上手くいくかは君次第だからね」
こくり、とレインが頷くと、ディリクが一歩を踏み出した。
「私も手伝おう」
その言葉に、ヴィオルウスが少し安堵したように頷いた。
「少し……荒業になるかもしれないよ」
「大丈夫」
「記憶よりも力を戻すことを優先させるからね」
す、とヴィオルウスがレインの手をとる。
ディリクが反対の手に触れる。
「ゆっくりと呼吸をして……私の力に逆らわないで」
オルカーンがぱたりと尻尾を振りながら、レイン達と床を見つめている。
やることが無いからか、アィルは口出しもせず壁に寄りかかったまま皆を見ていた。
不意にレインは自分の意識に、重い塊が流れ込んできたのに気づいた。
押し流されそうになりながら、受け流そうともがく。
まるで泥の中を泳ぐような感触だ。
きつく目を瞑って耐えていると、ディリクが強く手を握り締めてきた。
途端、楽に立てるようになった。
重い塊はまだあるけれど、泥ではなくさらりとした砂になったかのようだった。
ゆっくりと目を開ける。
その時、自分が目を閉じていたことに気づいた。
床の上に視線を移すと、酷く不自然な歪があるのが見えた。
何も考えられず、ただ本能のままに其処へ意識を向ける。
歪に触れ、力任せに押すと、パキリと乾いた音が響いた。
何も無い空間に、ひびが入っている。
構わずにそのまま押すと、ひびはさらに広がり、僅かな隙間が開いた。
漏れ出るのは黒い闇。
背筋が震えるような本能的な恐怖を振り切って、レインの意識はその中に飛び込んだ。
「オルカーン!」
ディリクが鋭く叫ぶ。
耳をそばだて、オルカーンは身構えて次の言葉を待つ。
「レインの意識が行った。追えるな?」
オルカーンは返事の代わりに身を翻した。
躊躇なく闇の中へと潜っていく。
ヴィオルウスとディリクはレインの手を掴んだまま、その闇をじっと見つめていた。
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