小説用倉庫。
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牙を刃にぶつけたまま、オルカーンは喉の奥で唸っていたが、やがて徐にアィルから離れた。
アィルは荒い息をして、立ち上がれない。
軽く息を吐いて剣を鞘に収める。
「……ごめん。大丈夫?」
申し訳なさそうにオルカーンがアィルの手を舐める。
アィルは盛大に溜め息を吐くと、身体から力を抜いた。
「……手加減なんてされてたまるか、って思ってたのに、全然駄目だなー……」
オルカーンが首を傾げる。
「反応とか斬り方とか良かったんだけど、足がついていってないんだよね」
「体力がまだ無いんだろう」
ルベアが同意すると、アィルは恨めしそうに唸った。
「薬師だから体力作りとか難しいんだよ……。これでもヴィオルウスよりは体力あるんだぞ」
突然矛先を向けられ、ヴィオルウスが目を白黒させる。
「あいつは剣は使わないんだろう? 魔法使いは総じて体力が無いぞ」
ルベアが断言すると、ヴィオルウスは困ったように微笑んだ。
「何をやっている」
声に僅かに呆れを滲ませ、店主が顔を出した。
「剣の相手をオルカーンにしてもらってたんだ」
アィルはそう言って上半身を起こす。
「戦専門の魔獣に? 良く無事だったな」
片眉を跳ね上げてディリクが言う。
アィルはきょとんとした表情でオルカーンを見た。
「そうなのか?」
「まぁ一応」
何処か決まり悪そうに視線を逸らすオルカーンに不思議そうな顔をした後、彼は立ち上がって服についた砂を払い落とした。
「あ、暇ならディリク相手してくれないか?」
オルカーンに負かされた後なのにあっさりとしている。
一見したところ、ディリクは細身だ。
体力があまりあるようにも見えないが、動作はなめらかで隙がない。
武術の心得があるなら相当強いのではないかと思う。
ルベアが観察しているように見ていることに気づいているのか、彼はちらりとこちらに一瞥を与えてから視線だけで背後を振り返った。
僅かな間があって、ディリクはアィルに頷いて見せた。
「良いだろう」
やった、と歓声を上げ、アィルは広場へと歩を進めた。
オルカーンはルベアと共に椅子のあるところまで下がる。
ゆっくりとした動作でディリクがアィルを追って広場へと進んだ。
その手には、何時の間に出したものか棍が握られている。
剣ではないのか、と不思議な感じがしてつい凝視してしまう。
一般に広く普及している武器は剣だ。
魔獣を相手にする場合、棍では殺傷能力が低い所為だ。
それでもあえてそれを使うということは、刃物が苦手かそれで十分ということか、大抵そのどちらかだった。
ディリクは棍を持った右側を後ろに引かせ、立ち止まった。
視線はアィルへ固定している。
凪いだ水面のように静かに佇むディリクへ、アィルは抜き身の刃先を向けた。
視線を絡ませ、二人はそのまま静止した。
先に動いたのは、やはりアィルの方だった。
左側から掬い上げるように打ちかかるアィルに、ディリクは半歩、下がるだけで避けた。
風圧でディリクの前髪が舞う。
更に突進しながら、アィルが剣を振り下ろした。
ディリクは円を描くような足取りでそれを避ける。
次の瞬間、アィルの背後に回ったディリクが、棍を動かした。
こつ、と小さな音が響く。
剣を振り下ろした姿勢のまま固まるアィルの後頭部に、棍が当たった音だ。
ルベア達も驚いたようにその光景に見入っている。
速い。
ほんの数瞬で、ディリクは完全に背後に回っている。
彼は殆ど動かずに、アィルに勝利したのだ。
「……ふむ」
一つ息を吐くと、ディリクは棍を収めた。
同時にアィルも姿勢を戻して振り返る。
視線が合った時、ディリクが呟いた。
「実戦不足だな」
アィルはショックを受けたような顔でディリクを見返した。
「命を賭けたぎりぎりの戦いで強くなった奴らに、勝てるわけが無い」
言い切られ、全員が絶句した。
「お、俺だって実戦くらいしてる!」
「この大陸はレーウィスの統括地だ。強い魔獣は排除している。手におえない輩が居たことは無いだろう」
アィルが言葉に詰まる。
そのとおりなのだろう。
「強くなりたいならレーウィスに言っておくと良い。連れて行ってくれるだろう」
言い過ぎじゃないかとオルカーンが隣でオロオロしているのが分かる。
悔しそうに顔を歪めたアィルを見て、ディリクが視線を和らげた。
「……だが、筋は良い。もっと精進するなら、直ぐに追いつける」
微かに笑んで言われた言葉に、アィルが驚いて顔を上げる。
ぽかんとしている皆の視線に頓着せず、ディリクは表情を消すと扉を振り返った。
「起きたな。来い」
言い捨てて、扉へと歩き出した。
いつのまにか、その手から棍は消えている。
慌てて立ち上がり、扉へと向かった。
アィルは荒い息をして、立ち上がれない。
軽く息を吐いて剣を鞘に収める。
「……ごめん。大丈夫?」
申し訳なさそうにオルカーンがアィルの手を舐める。
アィルは盛大に溜め息を吐くと、身体から力を抜いた。
「……手加減なんてされてたまるか、って思ってたのに、全然駄目だなー……」
オルカーンが首を傾げる。
「反応とか斬り方とか良かったんだけど、足がついていってないんだよね」
「体力がまだ無いんだろう」
ルベアが同意すると、アィルは恨めしそうに唸った。
「薬師だから体力作りとか難しいんだよ……。これでもヴィオルウスよりは体力あるんだぞ」
突然矛先を向けられ、ヴィオルウスが目を白黒させる。
「あいつは剣は使わないんだろう? 魔法使いは総じて体力が無いぞ」
ルベアが断言すると、ヴィオルウスは困ったように微笑んだ。
「何をやっている」
声に僅かに呆れを滲ませ、店主が顔を出した。
「剣の相手をオルカーンにしてもらってたんだ」
アィルはそう言って上半身を起こす。
「戦専門の魔獣に? 良く無事だったな」
片眉を跳ね上げてディリクが言う。
アィルはきょとんとした表情でオルカーンを見た。
「そうなのか?」
「まぁ一応」
何処か決まり悪そうに視線を逸らすオルカーンに不思議そうな顔をした後、彼は立ち上がって服についた砂を払い落とした。
「あ、暇ならディリク相手してくれないか?」
オルカーンに負かされた後なのにあっさりとしている。
一見したところ、ディリクは細身だ。
体力があまりあるようにも見えないが、動作はなめらかで隙がない。
武術の心得があるなら相当強いのではないかと思う。
ルベアが観察しているように見ていることに気づいているのか、彼はちらりとこちらに一瞥を与えてから視線だけで背後を振り返った。
僅かな間があって、ディリクはアィルに頷いて見せた。
「良いだろう」
やった、と歓声を上げ、アィルは広場へと歩を進めた。
オルカーンはルベアと共に椅子のあるところまで下がる。
ゆっくりとした動作でディリクがアィルを追って広場へと進んだ。
その手には、何時の間に出したものか棍が握られている。
剣ではないのか、と不思議な感じがしてつい凝視してしまう。
一般に広く普及している武器は剣だ。
魔獣を相手にする場合、棍では殺傷能力が低い所為だ。
それでもあえてそれを使うということは、刃物が苦手かそれで十分ということか、大抵そのどちらかだった。
ディリクは棍を持った右側を後ろに引かせ、立ち止まった。
視線はアィルへ固定している。
凪いだ水面のように静かに佇むディリクへ、アィルは抜き身の刃先を向けた。
視線を絡ませ、二人はそのまま静止した。
先に動いたのは、やはりアィルの方だった。
左側から掬い上げるように打ちかかるアィルに、ディリクは半歩、下がるだけで避けた。
風圧でディリクの前髪が舞う。
更に突進しながら、アィルが剣を振り下ろした。
ディリクは円を描くような足取りでそれを避ける。
次の瞬間、アィルの背後に回ったディリクが、棍を動かした。
こつ、と小さな音が響く。
剣を振り下ろした姿勢のまま固まるアィルの後頭部に、棍が当たった音だ。
ルベア達も驚いたようにその光景に見入っている。
速い。
ほんの数瞬で、ディリクは完全に背後に回っている。
彼は殆ど動かずに、アィルに勝利したのだ。
「……ふむ」
一つ息を吐くと、ディリクは棍を収めた。
同時にアィルも姿勢を戻して振り返る。
視線が合った時、ディリクが呟いた。
「実戦不足だな」
アィルはショックを受けたような顔でディリクを見返した。
「命を賭けたぎりぎりの戦いで強くなった奴らに、勝てるわけが無い」
言い切られ、全員が絶句した。
「お、俺だって実戦くらいしてる!」
「この大陸はレーウィスの統括地だ。強い魔獣は排除している。手におえない輩が居たことは無いだろう」
アィルが言葉に詰まる。
そのとおりなのだろう。
「強くなりたいならレーウィスに言っておくと良い。連れて行ってくれるだろう」
言い過ぎじゃないかとオルカーンが隣でオロオロしているのが分かる。
悔しそうに顔を歪めたアィルを見て、ディリクが視線を和らげた。
「……だが、筋は良い。もっと精進するなら、直ぐに追いつける」
微かに笑んで言われた言葉に、アィルが驚いて顔を上げる。
ぽかんとしている皆の視線に頓着せず、ディリクは表情を消すと扉を振り返った。
「起きたな。来い」
言い捨てて、扉へと歩き出した。
いつのまにか、その手から棍は消えている。
慌てて立ち上がり、扉へと向かった。
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