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2012/02/11 (Sat)
 家の中は、空気は暖かいのに人影がまるで無い為にどこか寒々しかった。

「何で誰も居ないの?」
 レインがずばり聞く。
 たまにレインの直球な無神経さが羨ましくなる。
 ルベアは眉をひそめつつも、疑問に思ったことではあったので黙ってウェルの回答を待った。
「……此処は、長の家であると同時に集会場であり、儀式の場でもあるからですよ」
「……つまり?」
 緩く尾を振りながら、オルカーンが問う。
「此処は神聖な場所と考えられていますから、長しか居ないんですよ」
 どこか淋しそうな笑みを浮かべて、ウェルは視線を落とす。

 家の中は暖かい。
 所々に明り取りの為であろう、蝋燭の炎が揺れていたが、中はまだ薄暗い。
 人気がない所為もあるだろうが。
「一人なんだ?」
 レインのこの問いには、ウェルはただ黙って笑うだけだった。
 長の家にしてはあまり広いとも言えない廊下を進んで居ると、ウェルが不意に立ち止まった。
 何事かとウェルを見ると、彼は戸惑うように前方の薄闇を見つめていた。
「どうし――」

「ウェル」

 問いかけようとした途端小さく響いた声に、ルベアは勢いよく振り返った。
 左手は既に剣の柄にかかっている。
 其処に居たのは、先程家の前で会った青年だった。
 ウェルはラナの姿を認めると、微かに頷いて近くの扉を開けた。
「申し訳ありませんが、暫くこちらでお待ち頂けますか?」
「いいけど、何かあったの?」
 不思議そうに、レインが首を傾げる。
「いえ、用意が出来ましたらお呼びしますので」
 笑いながら、ウェルは皆が入ったのを確認して扉を閉めた。

 ルベアは遠ざかる足音を聞きながら、どうしたのだろうと振り返る。
 一瞥した部屋の中はごく普通の応接室のようだった。
 だが、振り返ったルベアは目を見開いた。
 部屋がおかしかったわけではない。

「……どうした、レイン?」
「……え?」

 きょとんとして問い返すレインの、顔色が酷く悪かった。
 普段も白いほうだが、今は白を通り越して土気色に近い。

「空気が重い。押し潰されそうだ」
 応えたのはオルカーンだ。
 頭と尻尾を垂れて、息苦しそうだ。

 扉に手をかける。
 どうしたのか、聞きたかった。

 だが。
 開かない。

 どんなに押しても引いても、びくともしない。
 閉じ込められた。
「何が……」
 二人とも苦しそうなのに、自分は何とも無い。
「んー、ちょっと息苦しい、かなぁ?」
 レインが間の抜けた声を出す。
 きょろ、と部屋を見渡すと、ソファに深く座る。
「この方が楽ー」
 言って目を閉じた。
 その隣に、オルカーンが身体を丸めて横たわった。
 ひょい、と顔を上げて、まだ扉の前に居るルベアに視線を投げる。
「落ち着けよ。俺達は強い魔法の力に当てられてるだけだ。発生源が何とかなれば問題ないよ」
 ルベアは今一度、扉のほうに視線を送り、大人しくソファへと向かった。
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