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2012/03/16 (Fri)
 かさりと草を踏む音がして、ヴィオルウスが近くへ来た。
「……だから、殺せばよかったのに」

 それで良かったのに、と自嘲気味に笑う姿に、アィルが一歩踏み出しかけた。
 それをルベアが遮る。

「おい」

 ヴィオルウスの目の前に立ち、ルベアが低く声をかける。
 顔を上げたヴィオルウスを、ルベアが殴り飛ばす。
 あまりのことにアィルが制止する間もなく、ヴィオルウスは宙に舞った。
「甘ったれんな」
 吐き捨てるような声は、けれど地面に叩きつけられ意識を失ったヴィオルウスには届かなかった。
「これでチャラにしてやる」
 宣言して、くるりと振り向く。
「で。薬草探しに来たんじゃないのか」
「え、あ、いや……」
 動揺してまともに返事の出来ないアィルが、視線を彷徨わせる。
「いや探しに来たのは来たんだけど」
 何故かぎこちない足取りで、アィルは倒れたヴィオルウスの傍へ歩み寄る。
 何をするのだろうと見ていると、どうやら懐を探っているようだ。

「……知り合いだって知らなかったら追い剥ぎだよね」
 ぼそりと呟いたオルカーンの言葉に不覚にも頷きそうになって、ルベアが憮然とした表情をつくる。

「あぁ、あった」
「何があったって?」
「月夜草。これ、取りに行かせてたんだ」
 言いながら振り返ったアィルの手には、青みがかった緑の葉が握られていた。
 薄い黄色の花もついている。
「あともう少し必要なものがあるんだけど、……ヴィオルウスはこのまま此処で寝かしといて大丈夫かな。連れて行くのも骨が折れそうだし」
「そんなに寒くないし、平気だろう」
 あっさりとルベアが言い放ち、アィルは困ったように頭を掻く。
「少し先に、赤い草があるんだ。見かけたら呼んでくれ」
 そう言って、アィルは茂みの先を指差した。
 そちらの方向に足を向ける。
 アィルはついてこなかった。
 別の場所で探すようだ。

 程なく、薬草を手にそれぞれが顔を合わせた。
「えぇと、……うん。全部揃った」
 アィルは満足げに頷くと、手に持った薬草を袋の中に慎重に仕舞いこんだ。
 その頃にはヴィオルウスも気がついていて、ぼんやりと周囲を見ていた。
 打ち所が悪かったのだろうかと思ったが、アィルに言わせるといつものことらしい。
 折角持ってきたのだからとその場で食事をし、アィルは一足先に調合しに行く、と言って家に戻っていった。
 残された三人の間に気まずい沈黙が落ちる。
 だが気まずい、と感じているのはどうやらオルカーンだけのようで、ルベアもヴィオルウスも少なくとも表面上は平静に見えた。
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