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2012/03/16 (Fri)
 家に戻る頃には周囲は薄暗くなってきていた。
 村の中は相変わらず人の気配が少ない。
 通りを歩いている人影は一つも見当たらなかった。
 家の中に入ると、暖かい良い匂いが漂ってきた。
 扉を開けた音を聞き取ったのだろう、アィルが食堂から顔を覗かせる。
「お、ちゃんと迷わず帰って来れたな」
 笑いを含んだ声に、ヴィオルウスが眉尻を下げる。
「やっぱり方向音痴だったんだ……」
 オルカーンがぼそりと呟く。
「あはは。中に入んな。疲れたろ?」
 笑って、アィルが中に引っ込む。
 各々、荷物を置いてから、食堂へと入った。

「もう少しで出来るから、ちょっと待っててな」
 振り返らずにアィルが言う。
 家事の殆どを彼がやっているのだろうか。
「手伝おう」
 ルベアが近くへ行くと、アィルは振り返って、ありがたい、と言った。
「じゃあ私も……」
「あぁ、ヴィオルウスは良いよ。お前昨日から森に行ってたろ。しっかり休んどけ」
「そう……?」
 ヴィオルウスが首を傾げながらオルカーンの所へ行くのを見て、アィルが耳打ちした。
「あいつ料理下手なんだ。任せるとえらい事になるんだよ」
 辟易した様子に、つい口元が緩む。

 ふと、アィルの顔色が悪くなっていることに気づく。
「……お前は、大丈夫なのか?」
「ん? あー、もう一日徹夜はつらいけど、あとは時間のかかるものばかりだから平気。明日になれば薬も全部出来るよ」
 自信に満ちた笑顔で、調理を続ける。
 彼を手伝いながら、ルベアはレインが此処にいたら何て言うだろうと考えていた。



 皆で食卓を囲んでいるとき、ヴィオルウスがぽつりと言った。
「レインのところに戻るんだよね?」
 ルベアは口の中のものを飲み込んでから頷いた。
「薬が出来次第な」
「あぁ、薬なら明日の昼には出来るぞ」
「ついて行っても良いかな?」
 静かに首を傾げて言われたことに、ヴィオルウスを除く全員が彼を見た。
 理由を問おうとルベアが口を開くより早く、オルカーンが答えた。
「良いんじゃない?」
 抗議の視線をオルカーン向けると、彼はのんびりと食事をしながらルベアを見返した。

 暫く沈黙が流れる。

 ヴィオルウスもアィルも、ルベアの返事を待っているようだ。
 ルベアは暫くの逡巡の後、頷いた。
 何故、オルカーンが良いと言ったのかは分かっていた。
 ヴィオルウスをレインへと引き合わせるためだ。
 レインを此処へ連れてくるか、迷っていたところだった。
「お前確か移動の魔法使えたよな」
 不意にアィルが言った。
 ヴィオルウスが考え込むような表情になる。
「出来るけど……時間かかるよ」
「1日2日かかるわけじゃねぇだろ」
「まぁそうだけど……」
「それで行けば早いだろ。あぁ俺も行くから」
 さらりと言って、アィルは食事に戻る。
 ヴィオルウスは驚いたようにアィルを見つめた。 
「つまり全員行くってことだな」
 溜め息混じりにルベアが呟き、それが合図だったかのようにその話題は終了した。
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