忍者ブログ
小説用倉庫。
HOME 296  297  298  299  300  301  302  303  304  305  306 
2024/11/22 (Fri)
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2012/04/09 (Mon)
「……良い。……構うな」
 掠れた声が耳に届いた。
 ルベアが、緩慢な動作で起き上がろうとしていた。
「けど……!」
 言い募ろうとするレインを黙らせ、視線をディリクに向ける。
 其処に何かを見て取ったのか、ディリクは浅く頷くと視線を上げた。
「……良いんだね」
 ヴィオルウスの囁くような問いに頷いて返す。

 瞬間、何も無い空間からどろりと闇が溢れた。
 それは人の影のような形を模していたが、所々が溶けているような、不完全な姿をしていた。
 返せ、とそれはわめいた。
 陰鬱に響く声で。
「彼は君のものではないよ」
 凛とした声と同時に闇は押しつぶされた。
 音は、しなかった。
 それは無音のまま凝固し、圧縮され、消えた。

 しん、と沈黙が落ちた。

 暫く時間が経ってから、オルカーンがぱさりと尻尾を振った。
 それを視界の端に受け、レインが半ば呆然と口を開く。
「いなくなった、の?」
 ディリクが空気を嗅ぐように僅かに顔を動かし、一言呟いた。
「もういない」
「死んだの?」
「手応えはあったよ」
「そのようだ」
 それを聞いた途端、レインの全身から力が抜けた。
 ルベアが呻いて、身体を起こそうとする。
「……っ、……」
 異変に気づいたアィルがルベアの手を取った。
「お前……手が」
「あぁ、……喰われた」
 淡々と言われた言葉に、レインが身体を強張らせる。
「……利き腕じゃないだけましだ」
 ルベアは苦笑して、アィルの持つ右手へと視線を走らせた。
 その腕は弾力を失い、石のように硬くなっていた。
「……でも、無事で――……」
 よかった、と続けようとして、腕に増した重みに視線を向ける。
 目を閉じて、ルベアがもたれ掛かっていた。
「……ルベア?」
 ぽつり、と呟く。
 不安そうにオルカーンが顔を覗き込む。
 ディリクが素早く、何かを唱えながら手を取った。
 暫くあちこち触れた後、短く息を吐いて顔を上げた。
「気を失っているだけだ。問題ない」
 その言葉に、その場の全員がため息をついた。
「何だ、驚かせるなぁ」
 言って、アィルが表情を崩した。
「とりあえず、無事、なんだよね」
 レインが確認するように呟いて、後ろのベッドに倒れこんだ。
Comment
Name
Title
Color
Mail
URL
Comment   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Password
HOME 296  297  298  299  300  301  302  303  304  305  306 
HOME
Copyright(C)2001-2012 Nishi.All right reserved.
倉庫
管理者:西(逆凪)、または沖縞

文章の無断転載及び複製は禁止。
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新記事
[長編] Reparationem damni  (03/12)
[長編] Reparationem damni  (03/12)
[長編] Reparationem damni  (10/19)
[長編] Reparationem damni  (10/19)
[長編] Reparationem damni  (09/07)
忍者ブログ [PR]
PR