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2012/02/11 (Sat)
「オルカーン」

 周囲を警戒しながら手前を行くオルカーンの名を呼ぶ。
 周囲の気配に敵意は無い。
 ただ純粋に、様子を伺っているようだ。
「……何もしなければ、特に問題はなさそうだよ」
 低い声で言われたことに、ルベアは少し眉を顰めた。
 この中で問題を起こしそうなのは一人しかいない。

「レイン。何処へ行く気だ」
 早速道の脇にある木に近寄っていったレインを、腕を掴んで引き戻す。
「不用意にふらふらするな。囲まれてるんだぞ」
「何に?」
 きょとんと、レインは周囲を見回した。
「見えないよ?」
「見えないようにしてるんだよ」
 オルカーンが諭すように言うとレインは首を傾げて二人を見た。
「何で?」
「さぁな。こっちの出方を伺ってるんだろう。良いからさっさと抜けるぞ」
 掴んだままだったレインの腕を引っ張りながら、ルベアは足を速めた。

 駆け足で、オルカーンが先に立つ。
 ちらりと左右に視線をやると、木々と見紛うような深い緑色の何かが動いたような気がした。
 様子を伺っている割には追いかけては来ない。
 そのままの状態で暫く進み、気配が薄れたところで漸くオルカーンが歩調を弱めた。

「ル、ルベアー。腕が痛い」
 息を切らしながら、レインが訴える。
「あぁ、すまん」
 手を離すと、レインはその場にへたり込んだ。
「もー、二人していきなり早くなるんだもん。もうちょっとゆっくり行こうよ」
「ゆっくり行ってたら入れ違いになるかもしれないだろうが」
 その時、何処に行っていたのかオルカーンが戻ってきた。
「もう少し行った所に開けた所があったから、そこで少し休んでいこう」
「だ、そうだ。ほら早く立て」
「うぅルベア酷いー」
 情けない声を出しながら、レインが渋々立ち上がる。
 足元は少し覚束ない。
「……もうちょっと体力つけろよ」
 思わず言うと、彼は頬を膨らませた。
 子供じみたその仕草に笑いを押し殺しながら、先に進むオルカーンの後をついて行く。

 オルカーンが見つけたその場所は、本当にぽっかりと開けた場所だった。
 鬱蒼とした中の、唯一の明るい場所。
「……此処は、その、あれだ。……安全なのか?」
 歯切れ悪く問うと、オルカーンは渋い顔で頷いた。
「まぁ、見た目は怪しいかもしれないけど、害意あるものは近づけないよ」
 そう言う彼は少し辛そうだ。
「……お前も害意があるのか?」
 からかい半分に言うと、尻尾を一度ぱたりと振った。
 此処も魔法に関係した場所なのだろうか。
 ルベア自身は何とも無い。
 ただ場所に違和感があるだけだ。
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