小説用倉庫。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「その石は黒髪の子に渡したはず。何故、おまえが持っている」
「……ッ」
言葉に詰まってうつむく。
「俺はお前の石を持ってこいと言ったはずだ」
「……わたしの、石って……」
「まだ……」
「無理だよ」
言いかけた青年の声にかぶせるように、どこからか声が響いた。
囁くような声音なのに、はっきりと聞き取れる。
「仕上げまで、まだ時間が要るんだ」
青年は右手の方を見やると、そちらを睨むかのように目を細めた。
ヴィオルウスは息を呑んでその様子をうかがう。
横を向いた青年はほとんど微動だにせず、彼にしか聞こえない何かを聞いているかのようだった。
かすかな風に煽られて、青年の茶色の髪がさらりと動く。
じっと見ていると不意に彼がこちらを見た。
「預かりものはまだ返せない。先の契約どおり、……おまえが自分の石を手に入れられたら返そう」
「そんな……!!」
「おまえが」
ヴィオルウスの言葉をさえぎって、青年が少し声を強くする。
「おまえが逃げなければ、こういう事態にはならなかったんだ。――帰れ。そして石を手に入れたら、もう一度ここに来い」
青年は言うと炎を握りつぶした。
とたん、まわりを闇が支配する。
慌てて目の前に手を伸ばすが、何も捕まえられない。
「……ク……!」
口を付いて出た言葉に、一瞬周りが変化した気がしたが、依然暗いままだ。
「……ディリク」
無意識に、唇を震わせる。
紡がれた言葉は名前。
ヴィオルウスが忘れていた、鍵となる力ある名前だ。
(なぜ)
知らない名前。
(わたしは)
知らないはずだ。
頭では知らないと思いたいのに、このこみ上げる懐かしさは。
これは。
なに。
鍵。
きらめく赤い色。
あの。
夜、の。
「ヴィオルウス!!」
「――――――――!!!!」
絶叫が闇を切り裂いた。
「……ッ」
言葉に詰まってうつむく。
「俺はお前の石を持ってこいと言ったはずだ」
「……わたしの、石って……」
「まだ……」
「無理だよ」
言いかけた青年の声にかぶせるように、どこからか声が響いた。
囁くような声音なのに、はっきりと聞き取れる。
「仕上げまで、まだ時間が要るんだ」
青年は右手の方を見やると、そちらを睨むかのように目を細めた。
ヴィオルウスは息を呑んでその様子をうかがう。
横を向いた青年はほとんど微動だにせず、彼にしか聞こえない何かを聞いているかのようだった。
かすかな風に煽られて、青年の茶色の髪がさらりと動く。
じっと見ていると不意に彼がこちらを見た。
「預かりものはまだ返せない。先の契約どおり、……おまえが自分の石を手に入れられたら返そう」
「そんな……!!」
「おまえが」
ヴィオルウスの言葉をさえぎって、青年が少し声を強くする。
「おまえが逃げなければ、こういう事態にはならなかったんだ。――帰れ。そして石を手に入れたら、もう一度ここに来い」
青年は言うと炎を握りつぶした。
とたん、まわりを闇が支配する。
慌てて目の前に手を伸ばすが、何も捕まえられない。
「……ク……!」
口を付いて出た言葉に、一瞬周りが変化した気がしたが、依然暗いままだ。
「……ディリク」
無意識に、唇を震わせる。
紡がれた言葉は名前。
ヴィオルウスが忘れていた、鍵となる力ある名前だ。
(なぜ)
知らない名前。
(わたしは)
知らないはずだ。
頭では知らないと思いたいのに、このこみ上げる懐かしさは。
これは。
なに。
鍵。
きらめく赤い色。
あの。
夜、の。
「ヴィオルウス!!」
「――――――――!!!!」
絶叫が闇を切り裂いた。
Comment
倉庫
管理者:西(逆凪)、または沖縞
文章の無断転載及び複製は禁止。
文章の無断転載及び複製は禁止。
カレンダー
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
カテゴリー
- ご挨拶。(3)
- [長編] Reparationem damni(12)
- [長編] Nocte repono rubei(72)
- [長編] Sinister ocularis vulnus (30)
- [長編] Lux regnum(61)
- [長編] Pirata insula(47)
- [長編] Purpura discipulus(43)
- [長編] Quinque lapidem(29)
- [短編] Canticum Dei(3)
- [短編] Candidus Penna(9)
- [短編] Dignitate viveret,Mori dignitas (11)
- [短編] Praefiscine(3)