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2012/02/05 (Sun)
「その石は黒髪の子に渡したはず。何故、おまえが持っている」

「……ッ」
 言葉に詰まってうつむく。
「俺はお前の石を持ってこいと言ったはずだ」
「……わたしの、石って……」
「まだ……」

「無理だよ」
 言いかけた青年の声にかぶせるように、どこからか声が響いた。
 囁くような声音なのに、はっきりと聞き取れる。
「仕上げまで、まだ時間が要るんだ」
 青年は右手の方を見やると、そちらを睨むかのように目を細めた。
 ヴィオルウスは息を呑んでその様子をうかがう。
 横を向いた青年はほとんど微動だにせず、彼にしか聞こえない何かを聞いているかのようだった。

 かすかな風に煽られて、青年の茶色の髪がさらりと動く。
 じっと見ていると不意に彼がこちらを見た。
「預かりものはまだ返せない。先の契約どおり、……おまえが自分の石を手に入れられたら返そう」
「そんな……!!」

「おまえが」

 ヴィオルウスの言葉をさえぎって、青年が少し声を強くする。
「おまえが逃げなければ、こういう事態にはならなかったんだ。――帰れ。そして石を手に入れたら、もう一度ここに来い」
 青年は言うと炎を握りつぶした。
 とたん、まわりを闇が支配する。
 慌てて目の前に手を伸ばすが、何も捕まえられない。

「……ク……!」

 口を付いて出た言葉に、一瞬周りが変化した気がしたが、依然暗いままだ。

「……ディリク」

 無意識に、唇を震わせる。
 紡がれた言葉は名前。
 ヴィオルウスが忘れていた、鍵となる力ある名前だ。
(なぜ)
 知らない名前。
(わたしは)
 知らないはずだ。
 頭では知らないと思いたいのに、このこみ上げる懐かしさは。
 これは。

 なに。
 鍵。
 きらめく赤い色。
 あの。
 夜、の。

「ヴィオルウス!!」


「――――――――!!!!」


 絶叫が闇を切り裂いた。
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