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2012/02/05 (Sun)
 静寂を突き破り、痛いほど鼓膜に響く。

 それは重圧を伴う声。
 音量としては決して大きすぎることは無いはずなのに、臓腑が抉られるような感覚が残る。

 悲しみと怒りと不安を。
 様々な思考を入り乱れさせて、それは長く尾をひいて流れた。
 止めようとした声は阻まれて届かず、悪戯に煽るだけだったこの音はすべての感覚を麻痺させられた。
 耳を塞いでも目を閉じても遮断できない感覚に、思わず膝を突く。
 閉じた瞼の裏に映る極彩色の洪水に飲み込まれそうになって、アィルは慌てて目を開いた。

「……なんだよ、これ……」

 そこは先ほどまでいた空間ではなかった。
 一瞬見たはずの、古い部屋などどこにもなく、ただそこに広がるのは深い森。
 薄暗い曇り空。
 幻覚かと思い目をこするが、変化はない。

『何をやっているんだ!?』
 聞き覚えのある声。

 アィルは振り返った。
 誰もいない。
 見渡す限り広がるのは木だけだ。
 あの時確かにドアを開けたのに、そのドアもなくなっている。
『俺は何もやっていない!』
『まだ早いと言ったはずだよ』
「誰だ……?」
 聞こえてくるのはその声だけ。
 生物の気配もない。
 答えも返ってこない。
『一体どうしたって言うんだ』
 焦ったような声。
 小さく舌打ちする音も聞こえる。

 そこに留まっていても無駄だと思い、周りを見回しながら歩き始めた。
『ドアが……』
 不意に声が途切れる。

 と同時にどこからか鳥が飛び出した。
 全部で10羽はいるだろうか。それらが一斉に木立から飛び立ったのだ。
 鳥がいたのかと飛んでいった方をぼんやり眺める。

 黒い影が曇り空に吸い込まれていく。

 特に何も考えず、そちらの方向に足を向けた。
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