忍者ブログ
小説用倉庫。
HOME 73  74  75  76  77  78  79  80  81  82  83 
2024/11/24 (Sun)
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2012/02/05 (Sun)
『アィル!!』

 一瞬視界が輝いたかと思うと、次には誰かの顔があった。
「……アィル」
 見たことのある顔。
 夜に。

 アィルは弾かれたように半身を起こした。
「おまえ……ッ……!?」
 起きたとたん強烈な吐き気に襲われる。
 前かがみになって吐き気をこらえていると、誰かが背中をさすってくれた。
 誰かと思ってそちらを見ると、茶色の髪の青年だった。
 たしか裏道の道具屋の主人だ。
 ディリクという名の。
「君は一体何をしているんだ?」
 聞こえてきた不機嫌な声。
 夜にヴィオルウスのところにいた金の瞳の少年だ。
「おまえこそ……ッ……!」
 声を出そうとしたが、頭がぐらぐらしていてうまく言葉にならない。
「無茶だよ……。あんなことをして……生きているだけでもありがたいと思え……!」
「……何の、こと……だよ……ッ」
 憤りの声を上げる彼は、けれどなぜか泣くのをこらえているようにも見えた。

「ルシェイド、落ちつけ」
「落ち着いていられるわけないだろ! こいつは自分がどんな危ないことをしたのかわかっていないんだよ!?」
 ルシェイドは金の目で睨みつける。
「自分から、奥に入るなんて……!」
「……奥?」
 吐き気をこらえながら怪訝そうにアィルはルシェイドを見た。
「……ヴィオルウスの、心の中だ」
 押し殺した声でディリクが言う。
 けれどアィルにはよくわからない。

「……ヴィオルウスは!?」
 アィルは不意に顔を上げ、まわりを見回す。
 そこは依然として暗かったが、何も見えないわけではなかった。
 片膝を立てて懸命に目を凝らすが、その場で動いているものは自分を含めた3人だけだった。
「何で……どこに……?」
「おまえには見えないのか? すぐそこにいるじゃないか」
 静かに、けれど訝しげにディリクが問う。
 指差された場所を見て、アィルは首を横に振る。

 アィルに見えたのはただの木の床だった。
 何もない。

「見えない」
Comment
Name
Title
Color
Mail
URL
Comment   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Password
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
HOME 73  74  75  76  77  78  79  80  81  82  83 
HOME
Copyright(C)2001-2012 Nishi.All right reserved.
倉庫
管理者:西(逆凪)、または沖縞

文章の無断転載及び複製は禁止。
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新記事
[長編] Reparationem damni  (03/12)
[長編] Reparationem damni  (03/12)
[長編] Reparationem damni  (10/19)
[長編] Reparationem damni  (10/19)
[長編] Reparationem damni  (09/07)
忍者ブログ [PR]
PR