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2024/11/24 (Sun)
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2012/02/05 (Sun)
 その何かは足が速かった。

 全力で走っているのに、なかなか差が縮まらない。
 身長から見て子供のはずだ。
 胸のあたりまでしかない。

 そこまで考えたとき、ふとサキは首をひねった。
 いつだか、自分は同じことを考えなかったか?

 その答えは出なかった。

 小さい影を見失わないように必死に走る。
 街から遠ざかっていることに気づいたのは、だいぶ経ってからだった。

 膝まである草原の中を、黒い影目指して走る。
 わずかな月明かりの下で走っている自分がなにやら滑稽に思えてきた頃、延ばした手がマントの裾を掴んだ。

 走っていたサキは急に止まれず、その影を押さえ込む形で倒れる。
 肩で息をしながら何とか身体を起こす。
「……離せ」
 乱れた呼吸で影がしゃべる。
 思ったよりも細いその身体に驚きながら、サキがこたえる。
「逃げないなら……捕まえないさ……!」
 収まらない呼吸の乱れに深く息を吸いながら答えると、影は深く息を吐いた。
「……わかった。だから、退いてくれ」
 おとなしくサキが退くと、影は身を起こした。
「乱暴なことをする……」
 ため息とともに言われ、サキは視線を険しくした。
「お前が逃げるからだろう」
「追いかけられたら誰だって逃げる」
 身体についた草を払い、影はサキを見据えた。

 見たこともない金の瞳。
 鮮やかな。

 しばらく沈黙が落ちた。

「……で、何で追いかけたんだ」

 問われて、サキは自分が何故追いかけたのだろうと考えた。
「まさか、理由がないとか言うのか……?」
 げんなりとした表情で、けれど瞳はまっすぐこちらを見たまま影が言う。
 その表情にサキは何かが自分の中で動くのを感じたが、それはほんの一瞬で消えてしまったので掴むことはできなかった。

「……そうだ、あのことを聞きたい」
 不意に呟いたサキに、怪訝な顔で見返す。

「世界のことを」
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